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第百六十七章 困った客 2.バンクス(その2)

「まさかお主が来るとはな」

「お偉方も色々考えているんだろうさ。このところのアレコレで、ここバンクスに居を構える貴様の株は上がりっぱなしだからな」



 パートリッジ卿と酒を()()わしながら談笑しているのは、卿が母国にいた頃の友人、ウェスタデール卿という人物であった。パートリッジ卿が現在のマナステラ王国に――と言うか、卿の言葉を借りれば王国に巣喰う木っ端役人に――隔意を抱いている事を承知しているマナステラ王国上層部が、卿の懐柔のために送り込んできた要員であった。

 ウェスタデール卿の言うように、噂のイラストリアに居を構えて重要な情報――古酒だの「災厄の岩窟」の風景画だの――を本国に送るパートリッジ卿の重要性は、このところ鰻登りに跳ね上がっている。にも(かか)わらず、肝心のパートリッジ卿がマナステラ官僚団に信を置いていないのだから、そりゃ上層部としては嘆きたくもなる。

 今回の五月祭視察においては、何が何でもパートリッジ卿の協力が不可欠と思い詰めた上層部が、ここが正念場とばかりにウェスタデール卿――外務閥とは何の関係も無い――の起用に踏み切ったのであった。



「色々と訊きたい……と言うか、訊いてこいと言われた事はあるのだがな」

「その前に、マナステラ(あちら)の現状を教えてもらおう。木っ端役人どもが寄越した書面には、やれ『相互理解の深化』だの、『より良き未来のための第一歩』だのというゴタクばかりで、詳しい事情については何も触れておらんのでな」



 むっつりと説明を要求するパートリッジ卿に対して、あいつらのやりそうな事だと苦笑しつつ、ウェスタデール卿が事情を説明していく。公爵家の粛清が裏目に出て亜人たちとの溝が広がった事、連絡会議の事務局が――マナステラではなく――イラストリアに置かれた事に役人どもが狼狽した事、五月祭への出店がやはりイラストリアを優先した事にショックを受けた事、砂糖菓子店がマナダミアに開店した事で少し気分が持ち直したが、シアカスターにも砂糖菓子店が開店したという報せが出発直前に届いたため心中穏やかならぬ事……等々。

 ウェスタデール卿の説明を聞いて、古酒について自分が送った情報が今回の火種の一つとなった知り、渋い表情を隠せないパートリッジ卿。絵に描いたような自業自得である。こんな事になるのなら、いっそ黙っておけばよかったのか?



「まぁ、そう言ってやるな。あれでも上の小役人どもは、小役人なりに真剣らしいぞ」

「真剣だというなら尚更問題じゃろうが。この国の王家に連絡会議との仲介を頼むなぞ……あやつらは何を考えておるんじゃ」

「何も考えていないというのと、考えた挙げ句に出たのがアレだというのと、どちらがいい?」



 冗談とも本気ともつかぬ軽口を叩きながら呑んでいたウェスタデール卿であったが、やがてさり気無い様子で口を開いた。



「……視察の件はオットー殿にも報せてあるのだろうな?」

「と言うより、この件を持ち込んできたのがホルベック卿(オットー)のやつじゃ。あやつはこの国の宰相殿より報されたと言うておったが……どうやらあやつのところの事情(・・)忖度(そんたく)してくれたようじゃな」



 思わせぶりな口調でウェスタデール卿をジロリと()()けたパートリッジ卿であるが、公式には(・・・・)ウェスタデール卿は何も知らない事になっている。クリーヴァー公爵家の公子マールを、亡命させたりなんかしてません。



「……まぁよいわ。それで、何が訊きたいんじゃ?」

「まずは五月祭の、と言うかエルフたちの出店の様子だな。特に、この国の住民がどのような態度でエルフたち……ノンヒュームというのだったか? それに接しているのかを知りたい」



 ウェスタデール卿の主観としては筋の通った質問であったが、意外にもその質問に対しては困惑した表情が返ってきた。



「どう――と訊かれてものぅ……(わし)が実地に(あがな)った訳ではないからな」

「あぁ、そういう事か」



 仮にも貴族の一員であれば、祭の出店などに一々出向いたりはしない。パートリッジ卿の返答もそういう意味だろうと納得しかけたウェスタデール卿であったが……

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