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第百六十六章 留守番の幽霊 3.ヴィンシュタット

 留守番の代任者が見つかったと聞いて浮かれているのはカイトたち。代わりにやって来るのがマーカスの元貴族――のアンデッド――と聞いて(いささ)か不安な様子を見せているのが、ハク・シュク・アンナを始めとする使用人勢である。



「いや~……柄でもねぇ御曹子役なんかやらされて参ってたが……これでどうにか本来の役目に戻れるってもんだ」

「本当に柄じゃなかったよな」

他人(ひと)の事言えんのかよ? バートだってお貴族様の従者にゃ見えなかったぞ?」

「そりゃ、従者も主人相応って事だろうよ」



 浮かれて軽口を叩いているカイトとバートの残念コンビに、リーダーのハンクが釘を刺す。



「浮かれるのは解るが……実際の交代はまだ先だという事は理解しているんだろうな?」

「おぅ、そりゃ解ってるとも。なんせ大昔に死んだまんま、今までの情勢の変化とかは一切知らねぇんだろ? 歴史とかをお復習(さら)いする必要があるんだよな?」

「二百年近いんだっけな……それだけの変化を短期間で叩き込まれる訳だ。……ちっとばかり同情したくなんな」

「おまけにあたしたちの状況って、少しばかり特殊だものねぇ……」

「あの……少しでは済まないんじゃ……」

「ま、お勉強はそのお貴族様の仕事だ。……ア、アンドルさんだったっけか?」

「アムドール・ソレイマン。かつてのマーカス貴族で、今はあたしたちと同じご主人様の(しもべ)なんだから、同僚の名前ぐらい憶えておきなさい」



 マリアの台詞(せりふ)を聞いて、そう言えば――という感じで改めて問いかけるフレイ。



「その……アムドールさんですけど、僕たち……いえ、カイトさんとはどういう関係って事になったんですか?」



 成る程、これは聞いておいた方が良いと耳を(そばだ)てる使用人勢を横目に、ハンクが説明役を引き受ける。



「ソレイマン殿はカイトの遠縁という事にしてある。カイトの……その……症状が落ち着いたので、少しばかり外遊する事になり、その間の留守番役を頼むという設定だな」

「……おぃ……」

「症状ねぇ……」

「何か、説得力がありますね……」

「……お前ら……」



 険悪な目を光らせ始めたカイトを尻目に考え込んでいたバートであったが、やがて顔を上げて言うには、



「……て事は、俺たちは素顔のままで外を出歩く事になんのか?」



 バートの指摘を受けて、意表を()かれたように黙り込む一同。

 成る程、これまた重要な問題だ。外に出るのは決まったとしても、カイト・オーガスティンという貴族として外に出るのか、それとも一介の冒険者カイトとして活動するのか、決めておかないと(まず)いような気がする。



「……この場では決められん。ご主人様の指示を仰ごう」



・・・・・・・・



『参ったな……そこまでの事は考えていなかった……』



 ハンクからの質問を受けて考え込んでいるのはクロウであった。



『カイトたちは屋敷に引っ込んでいた訳だし、容貌などはそこまで見られてはいないと思うが……』

『カイトさんはともかく、他の皆さんは知られているんじゃありませんか? (ぬし)様』

『バートさんとハンクさんは物件を探して歩き回った筈だし……』

『それ以外にも……訊き込みとか……色々と……』

『……やっておりますな、確かに』

『とすると……あいつらを冒険者として活動させるのなら、顔を誤魔化す必要があるのか……』

『ますたぁ、ぎるどかぁどはぁ?』

『あ、そうですよ、マスター。 あの人たちのギルドカード、ヴィンシュタットに護衛として住み込んでいる冒険者――って事に、なってるんですよね?』

『あぁ……ギルドカードの偽造から始めなきゃならんのか……』

『エメンさんに造ってもらうしか……』



・・・・・・・・



「外で活動する時は、変装して動く事になんのか」

「あたし、変装なんかした事無いんだけど……」

「マリアさんはちょっとお化粧とかで誤魔化せば、大分感じが変わると思いますよ。と言うか、服装を変えるだけでも充分なんじゃ。……それを言うなら(むし)ろ……僕の身長の方が……」

「え、え~と……ほら、少しは伸びたんでしょ?」

「はい! 三センチも♪」


(「三センチ……」)

(「誤魔化すにゃ微妙な数値だよな……」)

(「いや……この短期間で三センチ伸びたんなら、この先まだ伸びるかもしれん」)

(「それはそれで(まず)いんじゃねぇか? こっちへ戻った時の事を考えると」)

(「むぅ……身長の事が印象に残るか」)

(「けどよ、今以上身長を伸ばすな――なんて、あいつに言えるか?」)

(「……前向きに考えよう。少なくとも、我々がアンデッドだという疑いは払拭される筈だ」)

(「まぁ……背が伸びるアンデッドなんて、聞いた事が無いしな」)

(「それを言うなら、太ったり痩せたりするアンデッドだっていないだろ?」)

(「カイト……お前、それを大っぴらにしろと言えんのか? マリアの前で?」)


「ねぇバート、変装ってどういう風にやるの?」

「おぉっ!? ……あ……いや……急に話しかけられたもんで……すまん。変装だったな。ま、一番手っ取り早いのは、顔に目立つ傷跡とか黒子(ほくろ)とか付けて、そっちを目立たせる事で顔自体の印象を薄くするってやつだな」

「傷跡に黒子(ほくろ)ぉ……?」



 あからさまに嫌そうな表情のマリアとは対照的に、



「あ、俺、傷跡って少し憧れてたんだよな♪」



 中二心全開でノリノリなカイトであった。

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