第百六十五章 廃村アバン 4.方針の確認
事態が予想以上に面白くなりそうな気がしたので、クロウは一旦撤退して、改めて眷属会議を招集する事に決めた。ただし、その前に……
『廃村の地下をダンジョン化しておく。多分だが、ここには何度も足を運ぶ事になりそうだからな。オドラントと同じように隠蔽と偽装をかけておけば、ダンジョンの存在に気付かれる事は無いだろう』
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『……というのが、向こうでシャノアが探り出してきた事のあらましだな』
すっかりクロウたちの参謀本部――この場合は陰謀に参加するという意味――と化したオドラントの会議室で、クロウは居並ぶ一同への状況説明を終えた。報告を受けた眷属たちは、揃って微妙な表情を浮かべている。
事態が意外でややこしいのは理解した。しかし、態々眷属会議を招集するほどの事だろうか?
『お主……何を企んでおるんじゃ……?』
『人聞きの悪い事を言うなよ、爺さま。折角の好機なんだから、有効かつ効率的に利用したい――それだけだぞ?』
『効率的――じゃと?』
『あぁ。折角面白そうなネタを持ち込んだお客さんがいるんだ。もう少し詳しい話を聞きたいと思うのは人情じゃないか?』
『ふむ?』
『つまり……仕留めたり追い出すのを急がずに、しばらく観察しようと仰るのですか?』
『そういう事だ。それに、折角だからそこからもう一歩踏み込んで――』
『もう一歩……』
『……踏み込むんすか……』
青白いアンデッドたちの顔色が、何となく更に悪くなった気がする。
『……クロウ、お主、何を考えておる?』
『別に不穏な事を考えてるんじゃないぞ? 今後も脛に傷持つ連中が立ち寄ってくれれば、面白いネタが手に入るんじゃないかと思っただけだ』
『ふむ……』
『あの廃村を諜報拠点として使うという訳ですか?』
『ダンジョンにはしないんすか?』
『そこが今回の議題という訳だ』
クロウは配下たちの様子を見回して言葉を続ける。ダンジョンコアたちはこの場にいないが、念話を介してその気配は伝わる。
『現状を整理してみるぞ? まず精霊たちから依頼された精霊門の件がある』
『あら、一応憶えててくれたのね』
『当たり前だ。……続けるぞ。そのためには各地に魔力溜まりを作り出す必要があるが、これは必ずしもダンジョンでなくてもいい訳だ』
『ふむ……そこまでは問題無いのぅ』
『一方でダンジョンシードの事がある。俺たちはなるべく早くあと一個のダンジョンを用意する必要がある訳だ。……それともう一つ、アンデッドたちの出入口の事も忘れる訳にはいかん』
カイトたちアンデッド勢が揃って頷く。彼らにはこちらの方が切実な問題だ。
『以上を考慮すると、アバンはダンジョンとして運用するのが都合が好いと考えられた訳だ』
眷属たちにも異論は無い。抑もそれが既定の方針だった筈だ。そこにどういう変更が加わるというのか。
『ところが、あそこに隠れている連中が少し状況を変えてくれた。今後もこのまま寂れた廃村にしておけば、脛に傷持つ連中が今後も隠れ家として使ってくれるかもしれん。そうすると、労せずしてアンダーグラウンドな情報が手に入るという事だ』
『つまり……ダンジョン化するとしても、その事を広く知らしめる訳にはゆかぬとの仰せですかな?』
『察しが良いな、ネス。そのとおりだがそれだけじゃない。あの場所を今のまま小悪党の隠れ家にしておくためには……』
『……余人を遠ざける必要がある、と?』
『そうだ。今のところは連中が幽霊の噂を流してくれているが、闇取引が終わった後はどうなるか。折角の噂も立ち消えになるんじゃないか?』
ここまで言われると、クロウの――爺さま基準では碌でもない――腹案も察しが付こうというものだ。
『……あの廃村を、丸ごと幽霊屋敷にしてしまおうと仰る?』
『……ボスは凄ぇ事をお考えですね……』
『……やっぱり碌でもないのぅ……』
『面白そうです!』
『…………』
各人各様のコメントを聞いたところで、クロウが改めて切り出した。
『基本方針については納得して――』
『納得も承服もしてはおらんのじゃがな』
『……理解してもらえたと思うが、ここでもう一つ考えておきたい事がある』
『――なんじゃと?』
これ以上厄介な話など聞きたくないと言いたげな爺さまであったが、クロウの話は案に相違して至極妥当なものであった。
『……財宝の処分先、のぅ……』




