第十八章 金策 3.宿屋にて
異世界での金策にあれこれ手を出すクロウですが、どうやら光明が見えてきたようです。
原石と薬草を売ってそこそこの金を手に入れた俺たちは、日帰りの予定を変更して一泊していく事にした。予定の変更は念話で留守居組にも伝えてある。魔力を消費するので常時接続はちとつらいが、遠距離通話ができるのはありがたい。何しろ俺の場合、こっちじゃほとんど念話でしか話してないからな。人間相手より従魔相手に話す事の方が多いし……うん、寂しくなんかないぞ。念話スキルも上がったし。
『ますたぁ?』
『マスター……』
いや、気を遣わなくていいからな、お前たち。
適当な宿屋へ入って宿代を尋ねる。幸い手持ちで充分にまかなえた。ペット連れでもいいかと聞くと、宿の女将は妙な顔をしたが、
「餌はそっちでやっとくれよ?」
という事でけりがついた。あ、ライはアーマー代わりを兼ねて懐中に潜んでいるから、ペットとして見せたのはキーンだけだ。こいつ、抜け目なく愛想を振りまいてやがった。如才ないな、キーン。
「しかし、随分懐いてるね。テイマーなのかい、あんた?」
「いえ、違うと思いますよ。餌をやったら懐いちゃったんですよ」
適当に受け答えしつつ、部屋に案内してもらう。片隅に粗末なベッドがあるだけの小部屋だが、不潔な感じはしない。これは当たりかもな。まだ陽は高いし、夕食までには時間がある。ライにも出てきてもらって反省会だな。
『薬草、売れてぇ、よかったですねぇ』
『あぁ、正直あの素材屋にはもう行きにくいしな。薬草が売れて幸いだ』
『結構いい値で売れましたね』
『品質が高いと言っていた。畑の土のせいかもな。ウィンたちが頑張ってくれたお蔭だろう』
『また来れますかぁ?』
『あぁ、薬草の方はまた売りに来れるかもな』
『しかし素材屋では失敗したな。石の需要があると聞き出せたのが収穫か』
『売りようはあるって事ですよね、マスター』
『加工できれば売りやすいんだろうがな。形を整えて磨くとか』
『ダンジョンマジックでぇ、できないんですかぁ?』
おいおい、ライ、いくらダンジョンマジックが便利だからって、物の形を変えたりは……いや、待て。
以前、マンションの植木鉢の土でダンジョン壁を造ってみた事があったな。ついでに変形と、土に戻す事もできたはずだ。それなら……。
売らずに残しておいた原石を取り出し、ダンジョン壁生成を念じてみる。石がダンジョン壁に変わったのを確認して球形に加工し、その段階で元の材質に戻してやると……。
『できた、な……』
鑑定で確認しても怪しいところはない。ちゃんと紅水晶の球になっている。
『……ダンジョンマジックって、何でもアリですね、マスター』
『便利ですぅ』
『本来の用途から大分外れてるような気はするがな……』
ともあれ、売り物を手に入れる事はできた。あとは売り先だが……。
『もうあの店には行けないしな』
『明日にでも他の店を探しますか?』
『エルフはぁ、だめなんですかぁ?』
ライの言葉に考え込む。そういや、別に人間に売る必要はないんだよな。ホルンに聞いてみるか。しかし、あいつがアクセサリーなんか買うのかね……。
『他の形にもぉ、できるんですよねぇ?』
そうか。ナイフか何かに加工してもいいのか。そういや、ドラゴンの骨も利用の当てがなくて持て余していたな……。作った魔石も売れるかも……。
『戻ったら色々と試してみる必要がありそうだな』
もう一話投稿します。




