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第百六十四章 贋金貨の混迷 4.王都イラストリア(その1)

 テオドラム新金貨の贋金騒ぎが話題に上ってから二日後、早朝の国王執務室ではいつもの四人が再びその話題を検討していた。



「……で? 結局のところ財務や外務の方じゃ何か判ったんですかい?」

「それが皆目というところでの……」



 憮然たる(おも)()ちで、宰相がローバー将軍の質問に答えた。



「バーモット財務卿が商人たちを問い詰めたところ、今回の件については商人どもも全く知らんかったと答えたそうじゃ。何の予兆も見られなかったとかで、寝耳に水だと言うておったとか」

「どうですかね? (こす)(から)い商人のこってすからね」

「いや……商人どもの性根についてはそのとおりじゃが、今回の件では商人どもも真実困惑しておるらしい。商理に合わぬ事だそうでな」

「商理ときましたかい」

「具体的にはどのような?」



 疑わしげな口調でローバー将軍が混ぜっ返すのを()退()けるように、ウォーレン卿が宰相に問いかける。



「うむ。まずな、贋金が確認されたのはアムルファンでの一件だけらしい。確か、セルキアの町じゃとか言うておった」」

()りに()ってアムルファンですかい」

「テオドラムが薪などを購入している町でしたね。そこの、()わばテオドラムの御用商人だけが被害に遭いかけたと?」

「まぁこれに関しては、一軒目で贋金が見破られたために、被害が拡大せなんだだけかもしれぬがな」

「セルキアの商人とテオドラムの仲がおかしくなったという話は?」

「聞こえてこなんだと言うておる。じゃによって、セルキアの商人も困惑しておるとの話じゃな」

「テオドラムの懐事情はどうなってんです? Ⅹのせいで大分厳しくなってんじゃねぇですかい? 相手を選り好みしてる余裕が無かったって事じゃ?」

「まぁ、テオドラムの懐事情までは判らぬが……予定外の出費とやらが(かさ)んでおった筈じゃからのぉ……」

「それじゃあやっぱり、そういう事なんじゃ……いや……テオドラムが仕掛けたんなら、もうちっと工夫ってもんがあるか……」

「ですね。一目でバレるようなものは造らない筈です」

「もう一つ。セルキアの前にマナステラとの間でも木材の取り引きを行なっておる。じゃが、そちらの方は真っ当な新金貨で支払ったそうじゃ」



 宰相の言葉に軍人二人も考え込む。テオドラムにとって、取引相手としての重要性は沿岸諸国の方がずっと大きい筈だ。なのに、沿岸国であるアムルファンに紛い金貨を掴ませ、取引量の多くないマナステラには真っ当な金貨で支払う。納得できる話ではない。



「……テオドラムが()手人(しゅにん)ってぇ線は、やっぱり消えるか」

「ですね。色々と辻褄(つじつま)の合わない事が多過ぎます。ひょっとして沿岸国の商人たちが――とも考えてみたんですが……」

「……難癖を付けて、テオドラムとの取り引きを切り捨てようとしたってのか?」

「沿岸国の商人たちがテオドラムに見切りを付けた、と?」

「可能性としてはあるかと考えたんですが、そうすると今度はどこから贋金貨を、あるいは手本となる新金貨を入手したかという点が不自然になるんですよ。新金貨が取り引きに使われるのを待ってそれを入手し、そこから贋金を……となると、期間が短くないかと。……まぁ、自分は贋金には詳しくないので確言はできませんが」

「いちゃもん付けるのに必要な数を造るだけなら、できたかもしんねぇぜ?」

「だとしても、店頭で渡されたものだけが贋金であったというなら、テオドラムが大人しく引き下がるでしょうか?」

「……準備した金貨が実際に贋金であった、あるいは贋金が含まれておった。そう言いたいのじゃな?」

「だとすると……造った贋金を、態々(わざわざ)テオドラムの国庫に忍び込んで本物とすり替えたってのか? いや……運ぶ途中ですり替える方が簡単か……」

「どちらにしても手間がかかる上に危険が大き過ぎます。(むし)ろ、地金自体をすり替えて、贋の地金でテオドラムに金貨を造らせた――という方が簡単かと」



 さすがに剃刀(かみそり)と異名を取るだけあって、ウォーレン卿はクロウの手口を見抜いていた。



「……それにしたって、普通の贋金使いはそんな真似はせんだろう?」

「それに関してじゃが……犯罪者どもの動きを探っておったルボワ内務卿が、ちと面白い事を言うてきた」

「ほほぉ、あの爺さ……いや、どんな目が出たんで?」

「……ルボワ卿は儂と同年配なんじゃがな。……陛下?」

「あ……いや……何でもない」



 ここまで黙って三人の遣り取りを聞いていた国王が吹き出しそうになったのをジロリと睨み付けて、宰相が言葉を続ける。



「……目付たちに悪党どもの動きを探らせてみても、彼奴(きゃつ)らが動いた形跡は無いそうじゃ。贋金造りは大掛かりな仕事になるので、何らかの痕跡を残すのが普通だそうじゃがな」

「ほほぉ……ますますⅩ臭くなってきましたな」

「ところがじゃ、密偵の一人が聞き込んだところによると、エメンがヤルタ教の手の者と一緒におったという証言があるそうじゃ」

「はぁっ!?」

「何でここにヤルタ教が出てくるんですか!?」

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