第百六十三章 視察の報せ 2.意外な者の消息
ウィンの不吉な指摘に一瞬眉を顰めたクロウであったが、
『……いや、大丈夫だろう。マナステラの連中の興味はあくまでノンヒュームたちだ。ここでエッジ村の染め物や丸玉を持ち出したら、何かを隠しているという疑いを招くようなものだからな』
クロウの回答に納得の体の従魔たち。
『そう致しますと……他の教会に研修に出すという事になりましょうか』
『現実的な線ではあるな。ただ……それだと領主の側から持ち出すのが難しいだろう』
『教会はぁ、あの子の事をぉ、知ってるんですかぁ?』
重要なライの指摘に一同考え込むが……
『ある程度の事情は話しているかもしれんが……具体的な事まで明かしているかどうかは疑問だな。物騒な秘密を敢えて漏らすような真似をするとも思えん』
『ワケありって事だけ、知ってるって事ですかぁ? マスター』
『その辺りが妥当じゃないかと思ってるんだが……』
『だったら、それとなく事情をにおわせて、他所の教会に遣るように、要請するって事は、ありなんじゃないですかぁ?』
う~むと唸って考え込むクロウ。確かにキーンの指摘はありそうな気がする。
『ありそうなのは……認めるとして……他に……どういう……可能性が……考えられるで……しょうか……?』
ハイファの動議を受けて、再び一同が考え込む。
『ますたぁ、ビィルはぁ?』
『ビール?』
子供とビールがどう結び付くのか、怪訝そうな表情のクロウであったが……
『あぁ、そう言えば……』
『視察団は五月祭を見に来るのでしたな』
――と、いうウィンとスレイの反応で気が付いた。今年の五月祭では、エルギンにもビールを廻すとか、そういう話が出ていた筈だ。それに事寄せて、ドランの村に町から誰かを派遣するという話になってもおかしくはない。領主が人を派遣するのは少し筋違いになるし、町を代表するとなると、商工会もしくは教会になるか……。
『教会から人を派遣するついでに、社会勉強の名目で見習い神官を同行させる……別段おかしなところは無いな』
・・・・・・・・
後日、ホルンからの連絡によって、教会からドランの村に使いが派遣されるという事を聞いたクロウたち。半ば予想していた事もあって、その報せ自体には驚かなかったものの……
「……今、何と言った?」
「は? いえ、ですから、道中の護衛としてエルギンの町のノンヒュームが同行する事になりましたが、それに死霊術師の冒険者も同行すると……」
「……死霊術師の冒険者?」
……心当たりが一人いる。
「えぇ。ソロの死霊術師がこういう依頼を受けるのは、珍しいと言えば珍しいですが。何でも、去年まではパッとしない冒険者だったのが、この冬にどこかで鍛え直してきたらしく、護身や護衛、撤退の技術を飛躍的に高めたとかで、最近評判になっているそうです」
……思い当たる節が一つある。
「……そうか。……役に立つなら……良いんだが……」
「まぁ、エルギンのノンヒュームでも腕利きを付けるそうですから、万一への備えは充分でしょう」
後日、スキットルからダンジョン村の事を――ダンジョンで訓練を受けた事は伏せて――聞いた神官から、テオドラムの更なる悪評が広まるのだが、それはまた別の話である。




