第百六十三章 視察の報せ 1.匿われている少年
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『五月祭……の……視察……?』
『ですかぁ?』
怪訝そうな声で問い返したのはハイファとライだが、他の眷属たちも揃って訝しげな表情を見せている。
昨日や今日始まったものではないというのに、今更何を視察するというのか?
『あぁ。理由は正直言って能く解らんが、マナステラから視察団が来るらしい。ノンヒュームが五月祭に出店しているのが気になるらしいんだが……』
回答するクロウの方も首を傾げている。ルパが珍しく手紙を寄越したかと思えば、書いてあったのはマナステラからの視察団の事。視察対象としてエルギンが候補に挙がっているというのは歓迎できない初耳であったが、視察の理由がクロウにも今一つ解らない。
『あれっ? でも、マスター、今年からマナステラにも店を出してますよね?』
『そうなんだよなぁ……』
個人的に伝手の無いマナステラの、更に一部の官僚層の複雑な心境など、いかにクロウと雖も察しようが無い。この点ではノンヒュームたちも同じであったし、ルパからの手紙にもその事は書いてなかった。
結局、この少し後でマナダミアの砂糖菓子店から同じ内容の報告が届き、それにはもう少し踏み込んだ事情が書いてあったために納得する事はできたのだが、抑クロウたちにとっての問題はマナステラの思惑などではなく……
『今年の五月祭には、エッジ村も出店を強制されてるからなぁ……』
変にエルギンが注目を浴びて、そのとばっちりがエッジ村に及ばないか――それこそがクロウたちの懸念するところであり……
『公爵家の……少年の……事に……気付かれたら……拙いのでは……』
『拙いどころじゃないな』
『そんな子供、ここにはいない事になってますからね~』
クロウたちが気に病む筋合いではないのだが、自分の方にとばっちりが来かねないとなると、そうそう無関心でもいられない。
『ご主人様なら如何様に采配なさいますか?』
『俺なら?』
思いがけないスレイの質問にしばし黙り込んだクロウであったが、
『そうだな……俺なら……とりあえず、王族どもが何を考えていようとスルーだな。俺の立場からすれば、面倒など降りかかってこないのが一番だ。そうすると……ここはあの子の事を知られない方が静かだろうな』
という結論の下に、マール改めマロウ少年の事は隠すのが一番だろうという結論に達する。では、どこかに匿うか?
『真っ先に思い付くのは領主の屋敷に匿うって方法だが……問題が無いとは言えんな』
既にマロウ少年の事は――本当の身元は別として――それなりにエルギンの住民に知られている。訳も無く姿を消せば不審に思われるだろうし、領主の屋敷に匿われているなどと知れた日には、どういう憶測――隠し子というものも含めて――が飛び出すか知れたものではない。
『それでは……一時的に……他所へ……遣るという……事に……なりますか……?』
『それが無難だろうが……問題はどこへ疎開させるかだな』
どこか他所に派遣するにしても、少年の所属はミルド神教の教会である。領主の私用でどこかへ遣るというのでは名目が立たない。
『そういう意味では、エッジ村が標的にされる事は避けられそうだが……』
何しろ、空気を読めない代官から、上納品として染め物を要求された件がある。エッジ村の視察という可能性があり得ないでもなかった。ただし、それはあくまで領主の都合であり、そこにミルド神教が関わってくる必然性は無い。
『マナステラまでエッジ村に目を付けるような事になっては堪らんからな。まぁ、領主もそれは同じだろうから、ここでエッジ村を持ち出すような馬鹿な真似はせん筈だ』
『身代わりにするって事は考えられませんか? 主様』




