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第百六十二章 マナダミア~砂糖菓子店~ 3.影響

 開店してしばらくすると客の入りも落ち着きを見せた。事前の予想どおり、客の多くは富裕層であったが、中には想定外の客筋も含まれていた。



「……料理人?」

「えぇ。どうも砂糖菓子の作り方を調べようという狙いらしく……」


 ……ふむ。予想はしていたが、思ったよりも動きが早いな。競争相手に対するアドバンテージを得るために、早めに技術を手に入れたいという訳か? 店員の懐柔や引き抜き工作の方が先かと思っていたが……


「いえ、それがどうも、料理人たちは個人的に動いているようです」

「何? 雇い主の意向ではなくてか?」

「貴族たちはまだ様子見の段階のようですね。料理人の方は一刻も早く技術をものにしたいようですが」

「何と……勤勉な料理人たちだな」

「どうも、仕事先を確保しておきたいという狙いもあるようです。砂糖菓子の作れる料理人となると、どこの貴族家も手放そうとはしないでしょうし」

「……いや、貴族家の料理人ともなると、そう簡単に解雇されたりしないんじゃないのか? 体面ってものもあるだろう?」

「今回は、職に()いていない料理人の動きを警戒してのようですね?」

「何だと?」


 どういう事かと思ったが、どうもフリーの料理人たちが、金を出し合って砂糖菓子を買い求め、技術の分析に熱心らしい。首尾良く菓子作りの技術を盗む事ができれば、今の料理人に代わって雇ってもらえるかもしれないというのが動機になっているようだ。成る程、そんな追撃があるんなら、雇われ料理人の側もうかうかとしていられない訳だ。


「それで……どうしましょうか?」

「放って置け。マナステラやイラストリアで砂糖利用の食文化が盛んになれば、自ずと砂糖の消費量も増える。将来を考えればプラスだろう。……それにな、ジャムだの砂糖漬けだのというのは、砂糖自体の品質がものを言う部分が大きい。テオドラムの粗製糖じゃ、どう足掻(あが)いても取って代わる事はできんさ」



・・・・・・・・



 コンフィズリー・ショップの開店は、クロウたちが予想していなかったところにも無視できぬ波紋を投げかけていた。具体的には、マナステラ王国の一部官僚層である。



「いやぁ……一時はどうなる事かと思いましたが……」

()(よう)々々。亜人たちが我が国を見限ったのではないかと冷や冷やものでしたが……取り越し苦労であったようですな」

「考えてみれば、我が国と亜人たちとの付き合いはそれなりに長い訳で。ぽっと出の新参者などに成り代わる事などできよう筈もないですからな」

(しか)(しか)り、イラストリアでは祭の露店ばかり多く出たようですが、我が国には何と言っても店を構えた訳ですからな」

「それも、これまで見た事も無いような砂糖漬けとやら」

「早速求めさせて見ましたが、見た目にも鮮やかで上品。子供相手のダガシとやらとは格が違いますて」

「いや、まことに」



 察するにこの連中は、ノンヒュームとの強調を(こく)()として(ひょう)(ぼう)しているマナステラに先んじて、イラストリアでノンヒュームたちが砂糖菓子やビールの販売に踏み切った事を快く思っていない一派であるらしかった。連絡会議の事務所がイラストリアのエルギンに置かれた事とも(あい)()って、ノンヒュームたちから訣別を告げられたような気分になっていたらしい。(こく)()としてノンヒュームとの協調を(うた)っていながら、当の相手から()(くだり)(はん)を突き付けられたとあっては、国際社会の笑いものである。その原因となったクリーヴァー公爵家の粛清に僅かなりとも関わっていた者は、今後永久に浮かび上がる事はできないであろう。

 そういう崖っぷちに追い詰められていた――と、当人たちは思っている――小役人たちにしてみれば、ノンヒュームのコンフィズリー・ショップの一号店が――イラストリアでなく――マナステラに開かれたという事は、文字どおり起死回生の慶事であったのだ。



「こうなると判っていれば、何も慌ててイラストリアに視察団を派遣するなぞ決める事はありませんでしたな」

「まぁ、良いじゃないですか。イラストリアでも見るべきものは、何かしらありましょうからな」



 わっはっはと(ほが)らかに笑うマナステラの官僚たちであったが、この後すぐに、王都イラストリアの前哨都市シアカスターにもコンフィズリー・ショップが開店する予定である事、シアカスターの二号店は一号店より少し広い――マナダミアの一号店で起きた混雑問題解決のために急遽売り場を拡張している――事などは、神ならぬ身の彼らには知りようもない事であった。


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― 新着の感想 ―
まぁ第一店舗ってだけでも聖地みたいなものだし…
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