第百六十一章 精霊からの依頼 8.オドラント~修道会設立計画~(その3)
『……え? 特定の神を奉じない?』
『それって、教団と言えるんですか?』
俺の話を聞いた全員が呆気にとられているが、
『確かに教団とは少し違うかもな。要するにだ、魔力の薄くなった荒廃地を回復する運動をしているっていう設定が使えないか? 神の祝福を失った荒れ地に、再び神の祝福がもたらされるのを願って、木を植えているとか何とか』
そう提案したんだが、聞いた皆が黙り込んだ。
『それは、教団とは違うんっすよね?』
『神への信仰とはまた別次元の話になるな。少なくとも、特定の神への信仰と結び付ける気は無い。ただ、他の教団が神像なんかを建てるのを拒む気は無いぞ? 独占させる気も無いけどな』
宗教勢力と緑化が結び付いてくれれば、保護の観点でも有益だろう。複数の教団が割拠していれば、どこか一つの教団が自分たちの利益のために木を伐るなんて事もできにくいだろうしな。
『そういう建前だから、教団を名告る訳にはいかんな。修道会とでも名告っておくか。……そうだな、「癒しの木蔭」修道会とか「祝福の息吹」修道会なんてのはどうだ?』
「リヴァイブ」とか「緑林補完計画」なんかもいいかもしれん。「祝福の若木」や「聖地の息吹」なんてのもありかもな。
『自分たちの事はハーミットと自称させたりしてな』
『ハーミット……ですか?』
『あぁ。俺の世界の言葉で「隠者」っていう意味だな』
ハーミットという名称は受けたようだが、こういう修道会がどう受け止められるかについては解らないと言う。前例が無さ過ぎて、見当も付かんそうだ。
『いきなり反撥される事は無いと思いますけど……』
『これは寧ろ、渉外能力の問題になるんじゃないでしょうか』
ふむ。となると修道会の本部には、対人交渉の得意な者が必要になるな。……エメンの知人に詐欺師(故人)とかはいないかな? 後で確認しておこう。
『人材の問題は後で考えるとして、他に検討しておくべき事は無いか?』
『あ、それでしたら』
――と、今度挙手したのはハンクのやつだ。
『修道会の拠点はどこにするおつもりですか?』
……拠点?
『……やっぱり必要か?』
『正直申し上げて、この方面の事には明るくないのですが……問い合わせを受けた時などに、拠点無しでは信用に関わるかと』
『あぁ……確かに……』
『根無し草の風来坊ってなぁ、今一信用してもらえねぇかもですね』
う~ん……そう言われればそうかも……
『だとして、どこが好いとおもう?』
こう問い返したら、またしても全員が頭を抱え込んだ。
『改めてそう言われると……』
『先に言っておくが、エルギンとモローは駄目だ。エルギンは目眩ましには好さそうだが、狭い範囲に色々と集中するのは拙い』
『王都は論外ですよね』
『だったらシアカスターも拙いっすかね。あそこは王都のすぐ手前っすから』
『ますたぁ、バンクスはぁ?』
『あそこは俺たちの冬の拠点だ。面倒を呼び込むのは避けたいな』
『バレンは……あそこは他所者には厳しいか』
『それに迷信深い土地柄だ。色々と疑われるのは避けられんだろう』
『ノーランドは?』
『北の玄関口だし、修道会が他所から来たっていう設定なら都合は好いが……』
『悪くはないが北過ぎる。先々はテオドラムでも活動してもらうつもりだからな。拠点があまり北だと都合が悪い』
『場所的に、精霊さんたちが動きにくいところで活動しないと、意味が無いんですよね?』
議論紛糾の挙げ句に出てきた場所は……
『サウランドかヴァザーリ、あるいはその近郊か……』
『どちらかと言えば、近郊の小村とかの方が好いかもしれませんね』
『まぁ、活動内容を考えるとなぁ……』
『けどよ、村の連中ってなぁ、案外と他所者にゃ敏感だぜ?』
『できれば、修道会がどこから来たのか気にされない方が好いんだが……』
『まぁともかく、あの辺りで手頃な場所を探してみます』
うん。これは安定のニールたちに頼んでおこう。
『取り敢えずはこんなところか』
『結構やる事が多いですね』
『ねぇクロウ、精霊門を開くのはまだ先になるの?』
あぁ……精霊たちにはそっちの方が問題か。仕方がないな。
『アンデッドたちの出入口を確保する目的で、ダンジョンの増設を検討している。場所によってはだが、そこに精霊門を開く事も考えよう。――ただし!』
手放しで喜びそうなシャノアに釘を刺す。
『……門を開くのは夜限定だぞ。不用意に人目を引く訳にはいかんのだからな』
アンデッドの出入口として使う場所が人目を引くのは、運用上都合が悪い。本来なら精霊門など開かせたくないんだが、ここは幾つか譲歩しておくべきだろう。




