第百六十一章 精霊からの依頼 7.オドラント~修道会設立計画~(その2)
キーンがシャノアに説明していたのは、オドラントでサトウキビやトレントの遺骸をモンスター化した時の事です。
『とすると、そこそこ大きな苗木を植える必要があるのか……活着率が問題にならんかな』
『あ、いえ。そこは木魔法だとか言い張れば……』
『うん? 修道会はお前の部下に任せるつもりだが、アンデッドの中に木魔法持ちがいるのか?』
不審に思ってペーターに訊ねたが、木魔法持ちはいないそうだ。俺のダンジョンマジックを当てにしていたらしい。
『お前なぁ……幾ら何でも、街道の並木をダンジョン化する訳にはいかんだろうが』
『おぉ……お主も少しは自重という事を覚えたようじゃな』
うるさいぞ、爺さま。
『いえ、ご主人様、僭越ながら我らがお役に立てるかと』
『そうですよ、お任せ下さい主様』
『何だったら、マスターの肥料で、パーっと大きくしてもいいですしね♪』
キーン……幾ら何でもそりゃ拙いだろう。
『いえ……人目が無ければ……問題無い……のでは……?』
『それもそうか……荒れ地の緑化には使えるか』
『……ねぇクロウ、その、肥料って何なの?』
あぁ、シャノアは新参だから知らなかったな。
『俺が地球……異世界から持ち込んだ肥料だよ。異世界を渡って来たせいなのか、妙に効果が強過ぎてな、下手をすると草木がモンスター化する虞もあるんで、使用には注意が必要だな』
『……トレントでも生み出すつもりなの?』
『いや? そんな面倒な事しなくても、トレントの種子とかなら手元にあるからな。……あぁ、後で説明してやるから、今はこの問題に集中しろ』
どういう事かと難詰してくるシャノアを軽く往なして、本来の議題の方を進めていく。あぁ、後ろの方でキーンが説明しているな。……シャノアの顔色が段々悪くなっていくんだが……キーン、お前、何をどう説明した?
『まぁ……いざとなったら木属性の魔石でも、根元に埋めてやればいいだろう』
『……あぁ……その手もありましたね……』
『ご主人様の魔石ですか……』
『文字どおり、奥の手ってやつっすね……』
何だよ? 確実に魔物化する肥料よりはマシだろ?
『ま、とにかくだ、街道の並木を整備する事で、領主から文句が出る事は無いな?』
『それは多分無いと思います』
『それ以前に、領主のところまで話が届くのがいつになるか』
『あぁ、成る程な……だったら、先に既成事実を積み上げる余裕はあるか』
そんな話をしていたところに、シャノアのやつが不思議そうに割り込んできた。
『ねぇクロウ、何でそんなに領主の顔色を窺うのよ? バレンやヴァザーリの時みたいに、気に入らなければ潰してしまうんじゃないの?』
……おいシャノア、お前、俺の事を何だと思ってるんだ?
『潰すのは簡単でも、その後始末が面倒だろうが。エルフの時もそうだったが、精霊が敵対する領主を潰して廻ってるなんて評判が立ってもいいのかよ?』
『何でそんな評判が立つのよ!?』
『あ? 精霊門の事が明るみに出たら、潰された領地との関係は明白だろうが?』
それが嫌なら秘密裡に事を運ぶもんだと言ってやったら、シャノアは渋々納得したようだ。
(『あぁ……潰すのは簡単なんだ……』)
(『まぁ、スケルトンドラゴンやスケルトンワイバーンがいるからなぁ……』)
(『差し向ければ一発ですよね……』)
(『ご主人様だと、好きな時に好きな場所へモンスターを送り込めるからなぁ……』)
(『戦術的には、魅了持ちのウィスプにも興味があるのだが……』)
(『確かに。あれは戦術の革命とも言えそうだ』)
(『領民の混乱と暴動を誘発して、内部からの崩壊を引き起こす……。確かに興味を引かれるところ』)
……後ろの方で何か盛り上がってるが……
『おい、盛り上がってるところをすまんが、そろそろ話を再開していいか?』
『あ……はい』
『どうも申し訳ありませんでした』
『つい、年甲斐も無く夢中になりまして……』
『……気にするな。それで、他に想定される問題点とかだが……』
『あ、はい。それでしたら……』
怖ず怖ずと手を挙げたのはフレイのやつだ。こういう場で挙手して発言するのは珍しいな。
『えぇと……教団って仰いましたが、何の神を奉じている事にするんでしょうか?』
『あ……』
そこまで考えていなかったが……これは拙いか。
『有名どころの神を奉じたら……』
『はい。その神を信仰している他の教団や教会から、疑われる可能性があります』
『あぁ、確かに……』
『いきなり妙な派閥が湧いて出たら、そりゃ疑うわな』
『むぅ……しかし……そうなると新たな神をでっち上げる事になるのか?』
『ヤルタ教と同じですね』
『それはそれで、胡散臭い目で見られるのでは?』
『ヤルタ教の坊主どもと同じように見られるのは、願い下げっすね』
『カイト……あんた、一応生前はヤルタ教の勇者だったんだから……』
『いやだって、碌なやつがいなかったぞ? マリアだって知ってんだろ?』
『まぁ……それはそうだけど……』
……ふむ。ヤルタ教と同列に見られるのも癪だが、既存の宗教団体に睨まれたり警戒されたりするのも避けたいな。……いっそ、こういう手は使えないか?




