第百六十一章 精霊からの依頼 6.オドラント~修道会設立計画~(その1)
再起動したシャノアを交えて、改めて爺さまからの話を皆に伝えて意見を聞いてみた。
『木を植える事を活動目的とする教団ですか……』
魔力スポットの復活とか強化だとかは、精霊たちには悪いが、正直やってみないと判らないとしか言えない。しかし、情報組織の擬装として教団を設立するという話は、それとは別に検討すべき案件だ。
『気懸かりの一つは、そういう風にあちこちを廻って活動している教団が――まだ教団にすると決まった訳じゃないが――目立たないかという事なんだが……』
『いえ、その点なら大丈夫だと思います。布教活動を行なっている教団とかは他にもありますし』
『そうなのか?』
ペーターを疑う訳じゃないが、事はアンデッドたちの今後の安全にも関わる。念入りに確かめておくに如くは無い。他の面々を見回してみたんだが、皆一様に頷いている。
『そうすると、一次選考は通過というところか……そういう団体に対する、住民の反応はどうなんだ?』
敵意を持たれるのは困るが、無闇に纏わり付かれるのも迷惑だからな。
『それは……それこそ様々ですね』
『ヤルタ教なんかは、胡散臭い目で見られる事も多かったっすけど』
『あぁ……そう言えばカイトはヤルタ教の勇者様だったな。経験談というやつか』
『まぁ、一応』
『あ、でも、テオドラムの農村での評判は好かったですよ』
『あぁ、そう言えばダバルは、農村地帯でヤルタ教の活動状況を調べた事があったな』
あの時は確か……砒素汚染の調査と柵作りの指導で、農民たちの不安に付け込んだんだったか。やつらは現世利益を謳うのが巧みだからな。忌々しいが、参考にすべき点はあるかもしれん。
『ふむ……住民の反応については、少なくとも今の段階で気に病む必要はないか。となると、次は領主の反応だな』
かつてのホルベック領のように、宗教団体お断りの領地がどれくらいあるか……
『ほとんどありませんね』
『事情が事情とは言え、ホルベック領は珍しいケースでした』
『うん? そうなのか?』
『小さな宗派に目くじらを立てると領主としての器量を疑われますし、大きな宗派は敵対すると面倒ですし』
『ふむ……理屈だな』
宗教関係はこれくらいでいいか。とすると、次は……
『場所にもよるだろうが、緑化……木を植える事に対する忌避感とかはどうだ?』
さすがにこの質問は想定外だったらしく、全員顔を見合わせて当惑している。
『……村のすぐ傍に森が出来上がったりしたら……それは嫌がると思いますけど……』
『それくらいは俺にも解る。聞きたいのは荒れ地の緑化や並木の整備についてだ』
この世界、森林というのはモンスターの住処と同義語だからな。そんなものが生活空間を侵蝕すれば、そりゃ住民だって嫌がるだろう。
『荒れ地は……町や村から充分に離れていれば、そこまで気にする事はないかもしれません』
『いえ、その前に、何を植えるおつもりですか?』
『うん? ……いや、そこまでは考えていなかったが……そうか、住民たちの利用できるような樹種であれば、受け容れられ易いのか』
『はい。テオドラムほどではありませんが、焚き付けに使う木が身近で得られるというのは大きいですから』
『食べられる木なら、もっと、喜ばれますよね? マスター』
キーン……お前はいつもぶれないな……
『いや、しかしなキーン、餌が増えたら動物やモンスターだってやって来るんじゃないか? 迂闊に増やすのは考えものだぞ?』
『あ、いえ……疎らな木立程度でしたら、大型のモンスターは棲み着きませんし』
ふむ……となると、成長が速い有用樹種を疎林として育成すれば良い訳か。
『荒れ地については大体解った。街道の並木についてはどうだ?』
『そうですね……あまり畑に近いようだと、水を奪われるとして嫌がる者もいるかもしれません』
水か……そう言えば、この世界の水利権ってどうなってるんだ? 地球の中世なんかだと、水利権は国や領主が握っている場合もあったような……いや、これは後で考えるとしよう。
『植樹自体への規制とか反撥とかは無いと考えていいのか?』
『どうでしょう……並木を勝手に伐るなというのは能く聞きますが……』
『勝手に植えるなというのは……』
『寡聞にして聞いた事がありませんね』
『領主の方も考えた事は無いじゃろうな……』
『でも主様、小さい苗木だと、牛や馬に食べられちゃうんじゃありませんか?』
ぬぅ……それはあるか。荒れ地の場合も同じだな。




