第百六十一章 精霊からの依頼 3.魔力溜まり
『確認するが爺さま、精霊たちが欲しがっているのは魔力の溜まり場という事だよな? なら、必ずしもダンジョンである必要は無いだろう?』
『まぁ……それはそうじゃが……ダンジョン以外の魔力溜まりなぞ、どうやってでっち上げると言うんじゃ?』
『その前に確認するが、魔力溜まりってやつはどこにでも作れるもんなのか? 何か条件みたいなものがあるんじゃないか?』
爺さまにそう訊ねると、やはり魔力溜まりができ易い場所というのはあるらしい。精霊たちもそういった場所に門を開いていたようだ。
『だったら、元々あった場所に精霊門を復活させる方が早くないか?』
『じゃから、そういう場所は人間たちに伐り開かれたと言うたじゃろうが』
『全部が全部村や畑に変えられた訳じゃあるまい。と言うか、精霊たちもそんな場所に門を開いて欲しい訳じゃないんだろう?』
木材調達用に伐開してそのまま放置された跡地なら、緑化したところで誰からも文句は出んだろう。精霊門を開く場所に尤もらしい石碑か神像でも置いてやれば、そこを伐ろうなんて不心得者も出んだろうし。その場所を中心に、周りを少々緑化するだけでも充分いけるんじゃないのか? 精霊門を開くだけなら、ダンジョンほどの魔力は必要無いようだしな。
ふむ……聖地化して崇拝や畏敬の対象にするというのは、別の意味でもありかもしれん。俺はこれでもダンジョンマスターの端くれだから、魔力の澱みの事は知っている。そう言う視点で見れば、ダンジョンとは要するに、魔力や魔素を外部から回収するシステムだと言ってもいい。なら……パワースポットや観光名所のようにしてやれば、訪れた人間たちから魔力を回収する事だってできるんじゃないか? 実際にモローのダンジョンや「災厄の岩窟」では、似たような事をやっている訳だしな。まぁ、精霊たちの出入りは人間がいない時に限られるかもしれんが。
『全く……能くもそんな事を思い付くのぅ。お主の頭の中はどうなっておるんじゃ?』
『ご挨拶だな。俺の世界の観光事情を参考にしているだけだぞ?』
消失した魔力スポットを復活させるのと同時に、現在残っているスポットも強化するべきだろうな。これも緑化活動の一環としてやらせるか。聖地の巡礼と整備だと言えば通るだろう。早く魔力が復活するように、木属性の魔石でも埋めてやるか。それとも地球産の液体肥料でも稀釈して撒布するか。木魔法持ちの連中に頑張ってもらう手もあるかな。
『成る程、そういう事でしたら』
『お任せ下さい、主様』
うん。うちの子たちは本当に頼もしいな。だがまぁ最終的には、魔石や魔法で梃子入れしなくても持続できるようにするのがベストだな。あとは……
『おい爺さま。精霊たちは魔力の澱みみたいなもんは判るのか? 新たな精霊門を設置するとなると、魔力が溜まり易い場所を見分ける必要があるんだが』
『ふむ……精霊たちはある意味で魔力の塊のようなもんじゃし、できん事もないじゃろう』
『何だ? 随分あやふやな答えだな』
『当たり前じゃ。魔力溜まりなぞ見つける事はあっても、新しく作るなどと言い出したのはお主くらいじゃぞ』
『おぃ……作れと言い出したのは爺さまだろうが』
『まぁまぁご主人様、お心をお鎮め下さい。それに、魔力溜まりでございましたら、ご主人様にも見分ける事がおできになるのでは?』
『だんじょんまじっくでぇ、どぅですかぁ?』
あ……そうか、「仮想ダンジョン」で魔力分布を調べてやれば良いのか。なら場所の選定についてはどうにかできるとして、
『……突発的に現れてもおかしくない魔力スポットって、どういうのだ?』
そう訊ねてみると、皆が揃って微妙な反応を返した。
『……またぞろ妙な事を言い出しおって……そんなもんがある訳なかろうが』
『だったら新しい精霊門を開く事はできんぞ? 少なくとも人目のある場所には』
『ご主人様……あるとすれば……人家では……ないでしょうか』
『成る程のぅ……住んでいる人間によってはあるかもしれんな』
『あぁ……確かに……』
『ですねぇ』
お前ら……
『いえ……そういう事ではなく……ヴィンシュタットの……屋敷とかを……考えて……いたのですが……』
『あぁ、所謂呪いの屋敷ってやつか』
『もしくは……その逆に……祈りの場……とか……』
ふむ……。教会や祭壇みたいなものだとすると、これはやはり修道会のようなものをでっち上げるのが好いか。
『何にせよすぐという訳にはいかんぞ。俺も腹案が固まっている訳じゃないし、こっちにも都合ってもんがある。考えてはみるが、少し待て』
『よかろう。色好い返事を期待しておるぞ』




