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第百六十章 Go West 4.人材

 ホルンから訊き出した埋もれた城の事を報告したところ、カイトたちヴィンシュタット組を筆頭に、配下の連中が揃って食い付いてきた。まぁ、地下に眠る古城なんて胸熱ワードを聞かされれば当然か。


『あ、いえ、勿論それもありますが、自分たちが表に出るための隠れ蓑にもなると思いまして』

『宝探しにのめり込んだ酔狂な貴族の護衛ってんなら、そう不自然でもねぇような気がしやすんで』

『別の方面で目立つような気もしますけど……』


 フレイが若干の懸念を表明しているが、基本的に反対はしないようだ。まぁ、引き籠もりっ放しの境遇をどうにかできる好機だからな。見過ごすという選択肢は無いんだろう。ただし、問題が無い訳じゃない。


『問題はだな、当の道楽貴族をどこから調達するかって事だ。丁度好い貴族の怨霊か何かに心当たりはあるか?』


 生きている道楽貴族になら心当たりが無くもないが、ハーコート卿を殺したりすれば話が大事(おおごと)になるのは間違い無い。心当たりがあれば好し、そうでないなら適当な替え玉を見繕って……と、思っていたのだが、ペーターが()()ずという感じで手を挙げた。基本果断なこの男には珍しいな。


『あの……打って付けの男がいるにはいるのですが……』

『うん? お前の友人か何かか? 無理に勧誘する(ころす)必要は無いぞ』

『いえ……そうではなく、自分の部下に……』


 ――部下? アンデッドって事か? そんな手頃な人材がいたか?


『ハンス・ヘンデル。ご主人様が早期に復活させて下さった()(ちょう)士官の一人です』


 ……()(ちょう)士官か。テオドラム侵攻部隊二個大隊の装備なんかを調べ上げたり管理するのに必要だから、早い時期に頑張って復活させたんだよな。あの「テオドラム軍備レポート」を(まと)めるのにも働いてもらったし。しかも士官となると、そこらの戦闘士官よりも情報量の点で価値が高い。……成る程、ペーターが渋る筈だ。組織管理に有能な中間管理職を手放す事になるんだからな。


『ふむ……確かに組織運営上は手痛いな。だが……()(ちょう)部の士官となると、それなりに情報収集の仕方も心得ているんじゃないか?』


 この世界の()(ちょう)団というのは単なる補給部隊ではなく、巨大な情報組織でもあるようだ。どうも軍需省に近い性格の組織らしい。なのでそこの士官ともなると、情報の収集や分析にもそれなりに()けている訳で、情報収集も兼ねて外に出すのに打って付けなのも事実だ。


『まぁペーターには迷惑をかけるが、どのみち情報組織を立ち上げる必要があるのも事実だ。その責任者候補として使えそうなら……いや……その前に、適役というのはどういう事だ?』


 うっかり聞き流していたが、打って付けというのはどういう意味なんだ?


『あぁ、申し遅れました。ヘンデルは歴史学に興味があるとかで、その手の話に詳しいんですよ。何でも、子供の頃は歴史学者かトレジャーハンターになりたかったとかで』


 ……某映画の考古学者みたいなのか? それとも、トロイの遺跡を発見したシュリーマンの方か? どっちにしろ、一応本人の意向を確かめてからだな。



・・・・・・・・



『やります! やらせて下さい!!』


 文字どおり食い付きそうな勢いで志願してきたんだが……アンデッドだと思うと少しばかり引きたくなるな。ダンジョンマスターの俺が言っても説得力は無いが。しかし……こいつらアンデッドになってから遠慮が無くなったんじゃないか? 生前の彼らを知っている訳じゃないが、どいつもこいつも欲望に忠実というか……ひょっとして死亡の影響が一番出ているのが、理性を(つかさど)る大脳皮質なんだろうか。


『――解ったから、そう身を乗り出すな。(はた)から見れば一般人を襲うアンデッドそのものだからな』

『あ……申し訳ありませんでした。つい……その……生前からの夢が叶うとなって……』


 まぁ、そういう事情なら解らんでもない。それと……おぃキーン、〝一般人?〟って(つぶや)いたのも聞こえてるからな。


『お前の生前の夢については知らんが、歴史好きの道楽者の役は務まりそうか?』

『道楽者という点には自信はありませんが、歴史好きという点では人後に落ちない自信があります』


 ほほぅ、それは頼もしい。


『グーテンベルグ城の事は子供の頃から聞かされていて、いつか行ってみたいと思っていました。今になってそれが叶うとは……ご主人様には感謝の言葉もございません!』

『う、うむ……』


 いや……忘れているのかもしれんが、俺はお前を殺した側だからな?


『だよなぁ。やっぱ一度は死んでみるもんだよなぁ』

『おぅ、色々と美味い酒も飲めるしな』


 ……ペーターまでうんうんと(うなず)いているんだが……何か間違っているような気がしているのは俺だけか……?


『ま、これで大手を振って外で動けるってもんだ』

『よろしく頼むぜ、ハンス』

『はいっ! 任せて下さい! いつでも行けます!』

『よしきた! それじゃ早速――』

『全く……まだ山は雪に閉ざされてるっていうのに、行ける訳無いでしょ』

『それ以前に、代わりの留守番が見つからんと動けない事を忘れるなよ?』


 ……いや……この世の終わりみたいな顔をするなよ。……こりゃ、早々に代わりを探さんと駄目かもしれん。

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