第百六十章 Go West 3.埋もれた城の伝説
眷属会議の翌日、俺はホルンに魔導通信機で連絡を取った。エッジ村の裏手の山から、モルファンもしくはイスラファンに下りる径の所在を確認するためだ。ホルンも即答はできなかったようで、シルヴァの村の連中とも相談の上で後日回答するという事になった。
それはそれで良いとして、問題はその時にホルンがふと漏らした一言だ。
『あ……』
『うん? どうした?』
『いえ……ふっと思い出した事があったのですが……その……』
『何だ? はっきりしないな』
『いえ……その……お気を悪くされたら困るのですが……例の丸玉は……その……』
しろどもどろに要領を得ないホルンを脅し賺して聞き出したのは……
『埋もれた城の伝説だと?』
『はい。いつの時代かは定かでありませんが、イスラファンの北東の端……ノーランドの関門から山で隔てられた辺りに、一つの山城があったそうです。ノーランドの関門へ抜ける間道はあったそうですが、大軍を動かせるほどの道幅ではなく、そこさえ封じれば背後を衝かれる恐れは無く、山々に周りを囲まれているため堅守を誇った城であったとか』
『ふむ?』
『噂では金だか宝石だかを産出する鉱山もあったとかで、小領に似合わぬ財宝を蓄えていたとか』
『ふむ』
『ところがその城が、ある時領地もろとも山崩れに呑み込まれたそうで……』
……成る程な。岐阜県にあったという帰雲城――帰雲城とも――みたいなもんか。天正地震による山崩れで埋没したそうだが、あそこにも埋蔵金伝説があったよな。
『城館のみか領地領民の悉くが埋め尽くされた訳でして……かつては土の色から「赤い開墾地」と呼ばれていたその土地も、今では崩落後の赤い崖を残すのみとなり、赤い崖と呼ばれています』
『……で? そこにお宝が埋まっているという噂が広まっている訳か?』
『広まっているというほどでは……かつては埋蔵金目当てに掘り返す者も多かったようですが、結局のところ何一つ掘り出す事ができず……』
『今は沈静化している、と?』
『はい』
ふむ……これは重要な情報だ。埋蔵金という心躍るワードを抜きにしても、埋もれた城を発掘できれば俺たちの拠点に使えるかもしれん。地下の秘密基地……実に良い響きだ。それに、埋蔵金を探している物好きな学者の護衛という設定なら、カイトたち冒険者が動き回る理由になるよな?
『……ホルン、丸玉の件はノーコメントだが、面白い話を聞かせてくれた。山を抜ける径の件もよろしく頼むぞ?』
『は、はい』
ホルンのやつ、妙に恐縮した様子だが……まさか、怯えているのか? こんな事ぐらいで俺が一々目くじらを立てる筈も無かろうに。
そんなホルンを見ているうちに、ふと気になった事があった。
『ホルン、話が飛ぶが……お前たち、沿岸国へ出向く事はあるのか?』
そう訊いてやると、話題が変わった事に安堵した様子を見せつつも、どこか戸惑った様子で否と答えた。
『我々にしろ獣人たちにしろ、基本的に山や森を離れる事はありませんから。それが何か?』
『いや、今更なんだがな、例の古酒をエルギンの領主に渡した時に、どこから手に入れたと説明したのか気になってな』
『沈没船から引き揚げたとだけ言って渡しましたが……拙かったでしょうか?』
ホルンも今になって気になってきたみたいだな。古酒騒ぎで迷惑を被っているのはこいつらも同じだし。出所不祥とした事が、却って貴族どもの興味を煽っている可能性も無視できんしな。それに加えて……
『俺は百年ほど前の代物だと口走ってしまったな……ホルベック卿にはルパから伝わったみたいだが』
徒に貴族どもの関心を掻き立てる事になったかもしれんな。
『……ホルン、ひょっとして貴族どもが沿岸国に使いを出していないかどうか……これも探っておいた方が良いかもしれん。セルマインに調べさせる事はできるか?』『頼んではみますが……それが重要な事なのでしょうか?』
『重要かもしれんし、そうでないかもしれん。ただ、予め備えはしておくべきだろう。どのみち例の砂糖の件に、沿岸国がどう反応しているのかも気になる。さっきの埋蔵金の話を口実に、彷徨き廻らせるのも手かと思ってな』
うん、これは眷属たちとも相談するべき内容だな。




