第百六十章 Go West 2.情報部
『通って来たルートについては一応決まったが、通過した土地の情報をどうやって手に入れる? 俺が一々出向く訳にはいかんぞ?』
万一誰かに見られたら不審に思われるだろうからな。変装して行くにせよ、その間俺は姿を消す事になる。説明が面倒になるのは事実だ。
『それですが……ご主人様……この際……ですから……情報部を……立ち上げては……如何かと……』
『情報部だと?』
『はい……これまでは……何かある毎に……誰かが……調査に……向かっていましたが……それでは……後手に回り続ける……事に……なります』
『成る程な……』
ハイファの提案は、専任の諜報組織を立ち上げて、普段から情報の収集に当たらせるというものだった。確かに、今までのやり方だと後手々々に廻ってしまう憾みがあったし、今後はカイトたちをはじめとしてアンデッド部隊を積極的に活用するつもりだから、それを考えると必要かもな。
『ふむ……確かにそろそろそういった組織が必要かもしれんな。こういう仕事はノンヒュームたちに廻したいんだが……今の情勢だと難しいかもしれんな』
エルフや獣人は、基本山の近くから動かないようだからな。町の中で聞き込みをやらせるのは難しいだろう。ここは多数のアンデッドたちを運用できる俺が動く方が良いか。
『人員はアンデッドを廻すとしても、どうやって聞き込みをさせる? 本職ならその土地に住み着いて仕事を得、次第に地域社会に浸透していくんだろうが……今回はそこまで悠長な真似をするゆとりは無いぞ? 抑、旅人の俺が見聞きした程度の内容を調べる訳だしな』
定住策まで採る必要は無いだろう。とすると、やっぱり冒険者か? そう考えていたんだが……場合によっては、護衛対象もいないフリーの冒険者だと目立つ可能性があるそうだ。なら、以前にも討議したように、行商人に偽装するか?
『あ……いえ、今度の場合は土地の人間との接触を前提にしますから、少し状況が変わります』
うん? どういう事だ?
『行商人にゃナワバリがあるんすよ』
『縄張りと言うか……どうしても得意先を回るような形になりますから、見知らぬ場所を訪れる行商人は多くありません。徒歩で荷を担いで廻る駆け出しか……もしくは、新しい販路を開拓しようという商会くらいですか』
『それに、護衛の冒険者を雇うようなのは、それなりに大手の商会という事になります』
むぅ……すると、アンデッドを駆け出しの行商人に仕立てる事はできても……
『我々が護衛に付くのは不自然ですね』
『あと、商人たちの情報網は侮れませんから、迂闊な真似をすると余計な注意を引きかねません』
『まぁ、逆に言えば、その情報網は利用価値があるんですけどね』
そうすると……カイトたちが出歩いても不自然でない理由を探さねばならん訳だが……
『あ、いえ、当てが無い訳でもないんです』
ハンクが説明したのは、モンスターの魔石をはじめとする魔物素材の事だった。テオドラムほどではないが、沿岸国でも魔物素材は払底気味らしく、持って行けば高い額で買ってくれるのは間違い無いという。
『ただ、そこまで行く旅費とかを考えたら、あまり旨味が無いんすよ』
『けど、それに見合う量とか質があれば、話は別なんでさぁ』
成る程。俺が作った魔石を大量に持ち込んで売り捌けば良い訳だな。
『あ、いえ……ご主人様の魔石は、ちぃとばかり……その……悪目立ちしやすんで……』
『その……ワイバーンの素材を多めに戴けると……』
……人気が無いんだな、俺の魔石……
『どうせあちこちを廻るんじゃろうから、ついでにお主の言う拠点とやらも探させてはどうじゃ?』
『それもそうだな。人目を避けた場所に拠点を得られれば、今後の活動も楽になりそうだ』




