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第百六十章 Go West 1.上陸地(笑)

 いつものように洞窟へ「出勤」してきた俺に向かって、ハイファが声をかけた。ハイファの分体は俺のマンションにも常駐しているのだから、このタイミングで声をかけたというのは、眷属(うちのこ)たちにも聞いてほしい内容という事だろう。



『クロウ様……今後……人族と……付き合う機会が……増える可能性を……考えますと……クロウ様が……通って来た……事に……なっている……国々について……知っておく……べきでは……ないでしょうか』


 ……うん、ハイファよ。お前の中では、俺は既に「人族」ではないんだな……。

 少しメランコリックな気分になったが、ハイファの指摘は重要だ。


『……考えてみれば、そうだな。俺は……確か沿岸国から山を越えてエッジ村に辿(たど)り着いた事になってたよな?』


 何しろずっと前の事だから、記憶が曖昧な部分がある。勘違いしていたら(まず)いので眷属(うちのこ)たちに確かめてみたが、俺の記憶は正しかったようだ。


『そうすると……俺はどの国を通って来た事になるんだ?』


 我ながら馬鹿馬鹿しい質問だと思うが……


『え~と……イスラファン……になるのかな?』

『もしくは、その北のモルファンでございましょうな』


 どっちも知らん。……うん、確かにこれは(まず)いな。


 これは俺たちだけで相談する内容じゃないだろうという事で、例によって他の配下たちとも相談する事になった。爺さまはオブザーバーとして参加な。



・・・・・・・・



『……また……今更ながらの事を言い出しおったのぅ……』

『返す言葉も無いな。しかし、現在の状況に(かんが)みると、確かにやっておくべき案件ではある』

『今まではどうしておったんじゃ? 話に上る事は無かったのか?』

『そういう話題にならないように配慮していたのもあるが……なぜか話題に出る事が少なかったんだよな。と言うか、他に話すべき事があり過ぎて』


 ルパにしろ()(ぜん)にしろ、昆虫だの考古学だのの話題で盛り上がっていたからなあ。俺に話題が振られる事はあっても、大概は俺の知識や経験についての事が多かったし。今更この大陸の事など聞いてもつまらんと思ってたのかもな。


『むぅ……そういう事か。しかし、今後はそうもいかんと考えておるのか?』

『と言うより、万一そういう事態になった場合の備えだな。それよりも、今はどう対処すべきかを問題にしたい。何か意見のある者は?』


 俺の発議に対して最初に名告(なの)りを上げたのは、


『僭越ながら提督(アドミラル)、まずは辿(たど)って来られたというルートを確定しては如何(いかが)でしょうか』

『自分もそう考えます。何よりも航路を先に確定すべきかと』


 クリスマスシティーとアンシーンの船舶コンビか。(もっと)もだな。


『そうなると……これはお前たちの知恵が必要になるな。どこの大陸から来たのかは後で考えるとして、どこの港に上陸した事にすべきなんだ?』


 ここはこの世界の海運情勢に詳しいアンシーンの出番だろう。


『上陸後、山を越えて来られたという事でしたら、最短距離を考えるならイスラファン。しかし船舶量を考えますと、モルファンという線も捨て難いかと』

『ふむ……異国の薬草を求めてこの国へ来た者としては、どちらがありそうなんだ?』


 そう(たず)ねたら、全員がう~んと考え込んでしまった。やがて俺の方を向いて質問してきたのは、元テオドラムの将軍であったペーターのやつだ。


『お訊ねしますが、ご主人様の軍資金はいかほどという設定なのでしょうか?』


 ……いや……そこまで考えていなかったからなぁ……


『……こんな無鉄砲な依頼を受けるくらいだから、よほど切羽詰まってたんじゃないか? ……自分で言うのも何だが』

『海を渡って縁もゆかりもない異国へ赴き、薬草を調べるというのじゃからな。真っ当な者なら引き受けんじゃろう』


 うるさいな。


『いや……ちょっと待ってくだせぇよ。ボスはこないだ版画の下絵をお描きになったとかで、結構な金を稼いでいなすったんじゃ? 本国でもそれなりにお稼ぎだったんじゃねぇんですかい?』

『あぁ、そう言えばそうでしたね』

『それに、こういう無茶な内容であるからには、依頼人からそれなりの支度金が入ったと思われます』


 むぅ……エメンの指摘もそうだが、ハンクの発言も重要だな。確かに支度金の事までは考えていなかったが……報酬の幾らかを前払いで貰ったと考えるのが妥当か。


『そうすっと……そこそこ懐を(あった)かくして旅立ったって事っすよね?』

『カイトなら支度金を使い果たして呑んじまっただろうけどな』

『……おい……人の事を言えんのかよ』

『カイトとバートは放って置いて……だとすると、少なくとも密航みたいな真似はなさっていない事になりますね』

『割と良い船に乗って来たんじゃないですか?』

『しかし、一等船室に乗るような真似はしなかったと思うぞ? 航海の安全は確保しただろうが、無駄に金を使ったとも思えん』


 その状況だと、どんな船に乗ってどこに上陸した事にするのが良いんだ?


『……そうですね。そのような設定であれば……船底に荷物扱いで、という事もないでしょうから……単純に、寄港する船舶が多いモルファンの港に上陸したと考えて良いのではないでしょうか』

『モルファンか……適当な港があるのか?』


 俺の問いかけにアンシーン(ゆうれいせん)ペーター(アンデッド)が何やら相談していたようだが、この大陸の地理に詳しいという事で、ペーターが答える事になったようだ。


『ズーゲンハウン……モルファンの主要三港のうち、南の港は如何(いかが)かと。そこからノーランドへ至る街道が通っていますし、途中で道を()れて山へ分け入っても、そう不自然ではありませんし』

『成る程』


 ペーターの提案に、今度はダバルが同意した。


『イスラファンの港に上陸した事にすると、そこからの主街道が延びている先はヴァザーリですしね。エッジ村に来るのは少し不自然になります』

『ふむ……なら、俺はどこかから船に乗って、モルファンの港ズーゲンハウンに上陸。そこから途中までは街道に沿って進み、途中から薬草調査のために山へ分け入った。そういう事でいいな?』

『あの山は結構深く急ですから、どこから入ったかは考えないといけませんけど』

『ますたぁ、エルフさんたちにぃ、訊いたらぁ?』

『あぁ、その手もあるな。今度ホルンにでも相談してみるか』

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