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第百五十八章 ホルベック領献上品顛末 2.計画

 エルギンの町が注目を集めるのはまだしも、ダンジョンマスターでもあるクロウとしては、エッジ村が同様に注目を浴びるのは望ましくない。その一方で、日頃お世話になっているエッジ村が豊かになるのは歓迎したい。

 相反する二つの要求の落としどころは……?



『どのような……決着を……お望み……ですか……?』

『面倒臭い状況だよなぁ……とにかく、エッジ村が今以上に注目を浴びるのは望ましくないが……』

『さりとて村の繁栄の邪魔はしたくない――と』

『中々厄介な状況ではございますな』

『ますたぁ、どぅしますぅ?』

『……丸玉と草木染めの騒ぎを沈静化する……それしか無いだろうな』

『とは言っても……』

『具体的にどうするつもりじゃ?』



 クロウ、村人、ホルベック卿の三者とも、これ以上の騒ぎを避けたいという点では本音が一致している。問題なのは、これら三者以外の者が騒ぎを大きくしているという点、そして、それら騒いでいる者たちを鎮める方策が不如意であるという点であった。



『整理してみよう。エッジ村並びにエルギンの町が目立つ理由は主に三つ。連絡会議の事務所、古酒、丸玉と草木染めだ』

『丸玉と染め物は、一緒にしちゃうんですか? マスター』

『細かく分ければ四つになるが……当面は一括して扱って良いだろう』

『ふむ。じゃとして、そこからどう話を進めるつもりじゃ?』

『まず、連絡会議の事務所については、今更動かす訳にはいかん。あそこにあるものとして扱うしかない。言い換えると、残りの二つをどうすれば騒ぎが収まるかという話になる』

『問題を単純化する訳でございますな』

『そこで、この二つがどういうプロセスで騒ぎを引き起こしているのか、という点が問題になる』

『……どういう事なんですか? (ぬし)様』

『まず、古酒に関して騒いでいるのは貴族たちだ。連中が古酒に執着する動機は、ルパの話を聞く限りでは、どうやら流行に乗り遅れたくないというものらしい』

『……要約すれば馬鹿らしい話じゃな』

『貴族としては無視できん話なんだろうさ。ともかくこういう場合、需要を満たしてやるか、あるいは需要を下げるか、この二つの対応が考えられる』



 クロウがそう述べると、配下たちは一様に考え込んだ。



『……需要を満たすってぇなぁ、つまり、貴族どもに酒をくれてやるって事ですかい?』

『察しが良いな、バート。そういう事だ。しかし、これが解決策になるかというと……』

『どちらかと言うと……競争が過熱するだけなんじゃ……』

『マリアの言うとおりかと。古酒の数が有限である以上、入手できない者は必ず出る訳ですから……』

『だな。それに、そんな事をすればドワーフどもだって黙っちゃいまい。故にこの手は使えんな』

『そうすると……残りは』『需要を下げるという事になりますが……』



 困惑したようなロムルスとレムスであるが、他の面々も同感らしい。揃って首を(かし)げている。



『まぁ、こういうのは流行に流され易い俺の世界の大衆を見ていないと、思い付かんかもな。……つまりだ、貴族どもが古酒に血眼になるのは、単にそれが美味いからじゃない。それに稀少価値があるからだ。これは解るか?』

『……はぁ』

『……何となく』

『だったらだ、新たに稀少価値の高いものを別の場所に出してやれば、貴族どもは一転してそっちに向かうんじゃないかと思わんか?』



 ここまで言われると、クロウの腹案に気付いた者もちらほら現れる。



『ご主人様、つまり……』

『おうよ。イラストリア国内で砂糖菓子を販売する、その計画の前倒しができないかと思ってな』



 砂糖というテオドラムの外交カードを奪うべく、砂糖および砂糖菓子の製造販売を考えたクロウであったが、その出店場所としてイラストリアとマナステラの二箇所が予定されていた。すなわち、マナステラ王国の王都マナダミアと、王都イラストリアの前哨都市シアカスターである。

 当初の計画では、まずマナダミアに出店して様子を見た上で、少し遅れてシアカスターに開店するという予定だったのだが、クロウはこれを前倒ししようと言う。



『俺たちの本命はエッジ村だが、いつまでもエルギンが注目を浴びていると、いつ何時(なんどき)こっちに飛び火するか判らんからな。それに、あそこには例の亡命貴族の子供もいる。関心が集まるのは避けたいからな。ま、これは領主も、そして多分気付いているだろう王家の側も同じだろうが』

『あぁ……』

『いましたね、そういうのも……』

『で、マナダミアとシアカスター……だったか? そこで砂糖菓子を売り出せば、物見高い貴族どもはそっちに飛び付くだろう。エルギンに町には平和が訪れるって寸法だ』



 どうだ――と言いたげなクロウを眷属たちは感心して見つめていたが、ここで呑兵衛のバートから異論が飛び出す。



『いや……そりゃちょっと甘ぇんじゃねぇですかい?』

『うん?』

『そりゃ、砂糖菓子には飛び付くやつも多いたぁ思いますがね、ありゃあ結局女子供の()(もん)でしょう? 大人の男がそこまで(なび)くたぁ思えませんぜ』



 ふむ、と考え込んだクロウであったが、意外にも甘党のペーターがバートに同意する。



『僭越ながらご主人様。今回の古酒騒動の根幹には、イラストリアの王家が古酒を激賞したという事実があるかと。王家の裏付けの無い砂糖菓子では、古酒ほどの効果が見込めるかどうかは……』

『ふむ……期待はできんか……』

『甘党としては遺憾ながら、はい。それに貴族が古酒を求めるのは、贈り物としての意味も大きいと思います。古酒であれば贈答品として遜色ありませんが……』

『あぁ……』

『貴族同士で飴とか贈り合うのは……』



 言われてみればと、微妙な表情になる一同。たしかに、古酒と違って砂糖菓子では(さま)になっていない気もする。言い出しっぺのクロウも、いい歳のオッサンが義理チョコを交換するようなものだという事に思い至り、これまた微妙な表情を禁じ得ない。



『一部の者は砂糖菓子に集まるでしょうが、良くて半分くらいではないかと』

『ふむ……効果はあるが、過分な期待は抱くなという事か』



 とは言え、少しでも効果が期待できるのなら、これはやっておいた方が良いだろうという事になり、後日連絡会議の方に打診する方針が決まる。

 それ以外の方法として、古酒には呪いがかかっていると噂を流すという中二的な案――提案者はカイト――も出されたが、更なる混乱を助長するだけではないかという意見とともに、噂の出所を探られたら面倒になるとの指摘があり、これは――クロウの心情的には残念ながら――見送りとなった。



『それでは、本命の染め物と丸玉だが……』

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