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第百五十七章 傍迷惑な要請 2.バンクス~送別会にて~

「今年は随分早い出発なんだな、クロウ」


 明日はバンクスを発つという前の晩、ほとんど恒例になりつつある俺の送別会で、ルパのやつが何気無い風にそう言った。


「まぁな。俺が世話になっている村が、ちょっとばかり面倒な事に巻き込まれててな。今年は早めに乗合馬車で帰る事にした」


 エッジ村の事情を無闇に触れ回りたくはないが、逆に格別隠しておく理由も無い。第一、知っている者は知っている事だ。特にこのルパのやつは、これでもエルギン領主の三男だからな。


「面倒?」

「クロウ君、それはどういう事かね?」

「いや、大した事じゃないんですが……」


 聞き捨てならぬとばかりに割り込んできた()(ぜん)に、エッジ村が巻き込まれている騒ぎの事を説明する。


「ほぉ……クロウ君の拠点は、あのエッジ村なのかね?」

「そうですが……()(ぜん)はお聞きになった事が?」

「僕も知っているぞ! クロウ!」


 いや……お前は領主の三男だろうが。知らない方が問題だろう。


「別段着道楽という訳ではないし、女性のスカーフに心惹かれる歳でもないがね。それでもエッジ村発の新たな装い……エッディアンというのじゃったかね……その一件は耳にしておるよ」

「うちのメイドたちも溜息を()いていた。さして高いものではないのに品不足で入手できない、それが何とも不本意そうだったな」


 ちょっと待て……エッジ村からバンクス(ここ)って……直線距離で三百キロ以上離れてるよな……?


「僻地の一寒村の事が、こんな遠くまで聞こえていると?」

「甘いぞクロウ。十年一日の如き日々を送っている者にとって、新たな装いの事など――仮令(たとえ)それが僻地の寒村の事であっても――恰好(かっこう)のネタだ。聞き逃す訳がないだろう」


 いや……十年一日の如しって……ダンジョン絡みで結構騒ぎが起きてただろう。……俺が言うのも何だが。


「戦乱だの流血だのといった殺伐ネタじゃなく、近来に無い愉快なネタだからな」


 そりゃ……ダンジョンに較べりゃホンワカしたネタかもしれんが……そこまで愉快なネタか?


「新たな装いが聞こえてきたというのに、それが寒村の貧民――僕が言ってるんじゃないぞ?――発の装いとあっては、気位の高い貴族どもが軽々に真似する訳にはいかないだろう? ()(ぎし)りしているらしい様子が、愉快でなくて何だというんだ?」


 貴族どもって……お前もその一員だろうが。妙に鬱屈したやつだな。


「まぁ、(わし)らが興味を持った理由はそういう事なんじゃが、その噂がクロウ君の予想以上に早く広まったのは、一つにはダンジョンのせいなんじゃよ」


 ダンジョンマスター(おれ)のせい?


「ダンジョンのせいというか……シャルドの遺跡とモローのダンジョンのせいじゃな」


 ……やっぱりダンジョンマスター(おれ)のせいって事なのか?


「シャルドの遺跡見物に物好きが殺到しておるのは知っておるじゃろう? ……かく言う儂もその物好きの一人なんじゃが……ともあれ、そういった見物客の多くがモローを通って来ている訳じゃ」


 ……()(ぜん)……あんたまで見物に行ったんですか……


「そう言えば……あの町(モロー)も結構賑わっていましたね」

「じゃろ? しかもモローには勇者殺しのダンジョンもある訳じゃ。単なる通過地点ではなく、見物して廻る者もいる訳じゃが……そういった連中の何人かが、エッジ村風の装いを目にしたらしいんじゃな」


 あ……


「田舎者と見下しておったのが、思いがけず(しょう)(しゃ)()(なり)をしておれば、そりゃあ驚くわい。(きん)()を出して(あがな)おうとした者もいたようじゃが……」

「金を積んでも次が手に入るかどうか判らないと言って断られたそうだ。ちなみに僕の従姉妹(いとこ)たちの話だ」


 ……なんか嬉しそうだな。……ルパよ、お前、従姉妹(いとこ)とやらに含むところでもあるのか?


「まぁそういった訳で、クロウ君の村の事はこっちに聞こえておるんじゃよ」

「そのエッジ村が五月祭に出店するというなら……これは確かに一騒ぎ持ち上がるだろうな」

「出店するって言うか、させられるって感じらしいんだがな。……しかし、そこまで大騒ぎになる可能性があるのか……」


 この手の情報には俺も爺さまも村人も(うと)いし……この場で知る事ができたのは運が好かったな。(たま)にはルパ(こいつ)も役に立つもんだ。


「僕も父親に連絡しておいた方が良さそうだな」


 ……うん?


「お前の親爺さんって、確かエルギンの領主様だったよな? 態々(わざわざ)連絡するような事か?」

「エッジ村の件だけならまだしも、今は時期が悪いんだ。クロウに貰った古酒の件で、エルギンの町を訪れる貴族関係者や商人が増えているらしい。……あぁ、クロウは知らないかもしれないが、うちの父親のところにも、エルフたちから古酒が届けられたんだそうだ」


 うん、知ってる。


「その古酒の件で問い合わせが酷いだけでなく、今度の五月祭では、エルフや獣人たちの商品が売りに出されるという噂もある。これにエッジ村の丸玉と染め物が加わるとなると……」


 ……軽く考えていたが……確かに危険かもしれん。この件は、帰還次第村長辺りに注進しておいた方が良いな。……いや、村長だけじゃない。ノンヒュームたちも、貴族の動向にまでは気付いてないんじゃないか?

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