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第百五十七章 傍迷惑な要請 1.王都イラストリア 国王執務室

 〝嘘を()いた途端に良い記憶力が必要になる〟とは、()く聞く話である。

 それと同じように、隠し事を決めた瞬間から、臨機応変と創意工夫を()(ゆう)(めい)とする必要が生じる。

 隣国からの要請を受けたイラストリア国王たちは、まさに今、その教訓の正しさを実感していた。



「マナステラからの視察団ですかぃ……」

「非公式とは言え、向こうの王家から直々の依頼じゃ。知らんぷりはできん」



 疲れたような声で又従弟の質問――の形を借りた突っ込み――に答える宰相。後ろにいる国王は、渋い表情を隠そうともせずに無言を貫いている。



「あちらさんはこのところ、亜人……ノンヒュームでしたな……から袖にされ続けですからな。そりゃ焦りもしますか」

「ノンヒュームとの協調を国是としながら、彼らからは妙な距離をとられていますからね。クリーヴァー公爵家の祟りでしょうか」



 さらりときつい皮肉を放つウォーレン卿だが、ここでこの話を蒸し返したのは単なる悪趣味ばかりではなかった。



「まさにそのクリーヴァー公爵の遺児が問題なのじゃ。()りに()ってあのエルギンが、視察地の一つに挙がっておるのじゃからして……」

「まぁ、マナステラを差し置いて連絡会議の事務局が置かれた場所ですからな。向こうさんとしちゃ、気になって仕方の()ぇところでしょうよ」



 この期に及んで遠慮なんかしていられるかとばかりに、ローバー将軍がズケズケと問題点を指摘する。宰相閣下(またいとこ)の顔色なんか知った事か。



「あそこに公爵家の三男坊が隠れているなんざ、考えてもねぇでしょうからな」



 クリーヴァー公爵家の三男マール。彼は公爵家粛清の折りに密かにマナステラを脱出し、今はマロウと名を変えて、エルギン領主ホルベック卿の庇護の(もと)に、ミルド神教の見習い神官として働いている。ホルベック卿はその事をひた隠しにしているが、国王府とて無能の集まりではない。きっちりその事を探り当てていたが、面倒を嫌って知らんぷりをし続けてきたのである。


 

「マナステラはこの件を……?」

「いや、知ってはおらぬ筈じゃ。()(たび)の件は単なる偶然じゃろう」

「不幸な巡り合わせというやつですね。それで、どうします? 偶然のふりでもして、この件を知らしめますか?」



 ウォーレン卿が国王と宰相の意向を確認する。実際、好い機会と言えば言えない事もないのである。亡命貴族だろうが何だろうが、現時点でイラストリア国内の、しかもミルド神教の礼拝所で働いているという立場にある以上、マナステラとて無理は通せない。()(くず)しに亡命の件を認めさせる好機とも言える。公式であろうとなかろうと、それでマナステラに対する外交カードが一枚手に入る。ついでに言うと、国際問題になりかねない火種を国王府に黙っていたという、エルギン男爵家に対する交渉カードも。



「……いや……問題があまりにも微妙過ぎる。他の場所ならいざ知らず、エルギン(あそこ)はノンヒュームたちの本拠地でもある。彼らが少年の事に気付いてないとは考えにくい。だとすると、こちらの独断で動いた場合、彼らの機嫌を損ねる公算は低くない」



 眉間に――深い――(しわ)を刻んで、ウォーレン卿の提案を退ける国王。



「確かに。今の時点でノンヒュームたちの機嫌を損ねると、下手をすりゃあⅩまで(へそ)を曲げかねませんからな」



 そんな危険など冒せない。



「とりあえず、ホルベック卿には早々にこの事を伝えておいた。我々は何も知らん事になっておるからな。気の毒なくらい狼狽しておったよ」

「まぁ……少年の事を抜きにしても、マナステラ特使とノンヒュームたちの板挟みになる訳ですからね」

(わし)なら御免ですな」

(わし)とて同じじゃ……気の毒とは思うが、代わってやる事もできぬし、そうするつもりも全く、断じて、露ほども無い」

「……骨折り賃に、子爵への陞爵(しょうしゃく)でも考えますかい?」

「……今のままの状況が続くようなら、それも考慮した方が良いかもしれん」



 大真面目な国王の返しに、思わず黙り込む一同。

 確かに、今や無視できぬ勢力に育ちつつあるノンヒュームたちとの窓口を、一介の男爵が引き受けるのは無理がある。本来なら然るべき貴族をその任に充てるのが筋であるが、生憎(あいにく)とエルギンの地を選んだのはノンヒュームたちだ。そこに王家の意向など入り込む余地は無かった。……まぁ、事務局設立の当初は誰も、ここまでの問題になるとは思っていなかったのだが。



「……陞爵(しょうしゃく)はともかく、何らかの役職か肩書きくらいは、用意した方が良いかもしれませんな」

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