第百五十六章 新たなダンジョン 3.新ダンジョンの方針
喫緊の問題は今にも発芽しそうなダンジョンシードの処遇であったが、これは割合あっさりと決まった。当面は植木鉢にでも入れて、クロウのマンションに置いておけば良いだろう。
『レブ――クレヴァスのダンジョンコア――を育てた時と、同じで良いんじゃないですかぁ?』
そういえばあれも発芽直後の状態だったな――と、クロウは当時の事を思い出す。
『そうだな……そうしておいて、細かな部分はレブに聞けば良いか』
何しろ、そうやって育てられた当人である。首尾不首尾については、誰よりも詳しく実感しているだろう。
レブに事情を話すと、とりあえずクロウのマンションに運ぶという方針については賛同してもらえた。強い酒を与える事については、やんわりと釘を刺されたが。
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『さて、ダンジョンシードの置き所はとりあえず決まったとして、問題はダンジョンシードが二つある事だ』
『つまり、ダンジョンをもう一つ造らねばいかん、そう言いたいんじゃな?』
『そのとおりだ爺さま。すまんがヴィンシュタット組には、今後も情報収集を続けてもらいたい。なに、手頃な物件が見つからなければ、適当な場所に俺が力ずくででもダンジョンを造れば済む事だ』
確かにクロウなら、事もなくやってのけそうではある。
『一応探しては見ますけど……』
『今回のように条件に適った場所が見つかるかどうかは……』
『あぁ。それは気にしなくて良い。気付かれないように出入りできる拠点を確保しておきたいだけだからな。できるだけ多い方が良いから、少しでも使えそうな物件があれば気を付けておいてくれ……不自然に思われない程度にな』
『解りました』
『それで……今回見つけたダンジョン跡地の事なんだが……』
クロウは一同を見回すと、徐に問いかける。どういう方針でダンジョンを整備するべきだろうかと。
『通常のダンジョンとして整備した場合、地上部の施設……抜け道や見張り場なんかは使いにくくなるが、それは少し勿体無いような気がしてな』
クロウの指摘にう~んと考え込む眷属たち。特に抜け道などを実地に検分したカイトたちやペーターからすれば、折角あるものをむざむざ放棄するのは、やはり勿体無い気がする。
『捨てるには惜しい設備ではありますね、確かに』
『今までのようにただの洞窟のふりをした上で、地上部もこっそりダンジョン化して、ノコノコやってきた盗賊たちに使わせる……って手もあるんだが……』
放って置けば何も知らない盗賊たちがやって来るだろうから、これをダンジョンの餌として吸収する事は難しくない――と言うか、造作も無い。ただ、そうすると後が続かないだろうというのが問題である。持続的な魔素の回収は、ダンジョンを維持する上で重要な条件なのだ。それなら、敢えてダンジョンでないふりをして、滞在する盗賊どもから魔素だけを回収するという方法も考えられるのだが……
『そうすると……こちらの……動きが……制約を……受けるのでは……?』
『そうなんだよなぁ……。それに、盗賊どもが実際にやってくるかどうかも不明だし……』
『もし来てもぉ、得られる魔素ってぇ、しょぼぃですよねぇ』
『そうなんだよなぁ……』
どうしたものかと悩むクロウたちに向かって、爆弾的な提案を投げ込んだのがキーンであった。
『マスター! いっその事、僕たちで山賊をやるというのは、どうでしょうか?』




