第百五十六章 新たなダンジョン 2.ダンジョンシード
『ふむ……この山地の北側は、それほど酷い岩場なのか』
『ええ。地表だけでなく、地中にも大小の岩石が多数埋没していて、耕作には全く不向きです。まぁ、南側も同じじゃないかと思いますが』
『その一方で、広がる岩場は騎馬殺しの効果がある。阻止線として活用するため、敢えて開墾を禁じた訳だな。すると、山地を自国領に含めなかったのも、行軍を妨げるための障害として残すためか?』
『そう聞いています。自国領に含めると、どうしても薪だの何だのと、盗伐する者が出てきますから』
『山間にヴォルダバンからテオドラムに抜ける間道はあるが、狭いため大軍を移動するのには使えない。樹林が障害物として残っている間は、ヴォルダバンからの侵攻は――少なくともこの場所に限っては――考えなくてもいい、そういう事か』
成る程と納得したところで、問題のダンジョン跡地に案内してもらう。冒険者ギルドから仕入れてきた情報に従って、バートが道案内に立っているのだが……
『何だ? 場所が判らんのか?』
『すいません。……どうにも地図のやつが古過ぎて……』
『いつの地図なんだ?』
『へぇ。最初にダンジョンが発見された時のですから……ざっと百二十年ほど前で……』
『そりゃ……様子も変わっているだろう……』
どうしたものかと悩んでいたところ、スレイとウィンが助け船を出してくれた。土魔法を使って、地中に伸びた洞窟のような場所を見つけてくれたのである。
『おぉ……確かにあるな。スレイ、ウィン、助かったぞ』
『いえいえ、これぐらい』
『容易い事にございます』
念のために洞窟内の気配を探ってみるが、盗賊たちはいないようだった。なのでクロウたちは洞窟内の様子を見に入り、ペーターとカイトたちで周辺の様子を検分していく。
『おぃ……これって、ひょっとして……』
『あぁ。間違い無ぇ。地図にあった道が塞がれて、新たに間道が作られてやがる』
『それだけじゃないな。他にも幾つかの抜け道が、それと判らないように作られている。万一の場合の逃走路だろうな』
『とすると……擬装されてはいるが、あの辺りが見張り場所か』
『盗賊の隠れ家にしては、結構手が込んでるわね』
『百年近くかけて、少しずつ整備してきたんだろう。簡易陣地としても充分な造りだ。ここに二個小隊を潜ませたら、そう簡単には抜けんだろうな』
『こりゃあ……当たりなんじゃないのか?』
『だな。移動用の抜け穴を幾つか作って戴ければ、すぐにでも使えそうだ』
カイトたちが話を纏めていると、内部の視察を終えたらしいクロウたちが現れる。
『そっちはどんな具合だ? 内部は意外と浅くてな。階層を幾つか追加して、坑道を拡げる必要がありそうだ』
『あ、ご主人様』
『地上の施設……と言うか、抜け道などは期待以上です。少し手を加えれば、二個小隊程度で守れると思います』
『ほぉ……それは吉報だな。そうと決まれば早速にでもダンジョンを整備して、ノコノコやってきた盗賊どもを餌に……うん? 何だ? これは』
喋っていたクロウの傍らに何やら小さなフワフワとしたものが二つ飛んで来たかと思うと、やがてクロウに纏わり付いた。危険な感じがしない事もあって、ただ怪訝そうに見ていたクロウであったが、ネスの台詞に驚かされる事になる。
『ほぉ……久しぶりに見ますな……ダンジョンシードとは……』
『何? ダンジョンシードだと?』
『はい。魔素や魔力の集積した場所を探して、このように飛んで行くのですよ。尤も、条件に適う場所に首尾良く辿り着けるものは、千に一つも無いと聞きますが』
『ますたぁ。この子たちってぇ、ますたぁの魔力に惹かれてぇ?』
『あ……俺が原因なのか……?』
『可能性はございますな。ご主人様の魔力は規格外でございますから』
『ダンジョンシードというのは、ゲートフラッグ同様に魔力に敏感ですから』
『主様の魔力なら、漏れ出てる分だけでも相当でしょうからね~』
そこはかとなく嫌な予感を覚えたクロウが、詳しそうなネスに問い質す。
『ネス……このダンジョンシードは、この後どうなるんだ?』
『そうですな……ご主人様を理想の場所と判断した以上、発芽するのでは?』
『……俺に寄生するという事か?』
ぎょっとしたようにクロウが訊ねるが、
『いえ、そういうのではありませんが……どうせここをダンジョン化するのなら、植えておけば手間が省けるのでは?』
『それもそうか……シードは二つあるが、同じダンジョンに植えても良いもんなのか?』
『いえ……確か、競争になって、どちらか一方だけが残る筈です』
『つまり……二つとも生かそうと思ったら、ダンジョンをもう一箇所、至急に造る必要がある訳か……』




