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第百五十二章 怨毒の廃坑 7.軍曹(サージ)ネス(その1)

「健全なる魔力はぁ、健全なる肉体に宿る!」


 キングサイズのジャージに身を包み、ついでに竹刀を肩に掛けてそう宣言するのは、リッチ――の筈――のネスだ。初めて着用した筈なのに、妙に馴染んで見えるのはなぜだろう……あいつ、生前は体育教師か何かだったのか?


「魔術師だからと言って、肉体の鍛錬を(おろそ)かにするなど、言語道断! 愚の骨頂ぉ!」


 ……言ってる事も体育会系だよ。そういや、魔術師にしちゃ妙にガタイが良い気がしてたんだよな。

 あのジャージはキングサイズ――福袋に入っていたが、サイズが合わないので仕舞い込んであった死蔵品――の筈なのに、まるで(あつら)えたようにピッタリと合っているし。……何か竹刀の取り回しも堂に入ってるしな。



 ――クロウを当惑させている現状が一体どうやって生じたのか。(さかのぼ)ればこういった経緯(いきさつ)があった。



・・・・・・・・



『ご主人様……あの……若者は……どう……なさる……おつもり……ですか……?』

『それなんだよなぁ……』

 正直言って、アンデッドに変えたところで使(つか)()が無いというか……


『絵に描いたような雑魚っすからねぇ……』

『カイト……もう少し言い方ってものを考えなさいよ……』

『ん? 言い方を変えても、雑魚は雑魚だろ?』

『まぁ……そう言われりゃあそうだわな』

 カイトたちが何やら議論しているが……ここは考えどころだな。


『現状を少し整理してみよう。まず、このまま殺してダンジョンに吸収するというのは、少なくとも上策とは言えん』

『……なぜです?』

『ダンジョンとしては一番普通の選択肢だと思いますけど?』

『普通のダンジョンならな。だが、ここシュレクでは少し事情が異なるだろう?』

『……村の存在……ですか?』

『そうだ。ダンジョンとしては当たり前でも、村の擁護者たる「ダンジョン様」としては、あまり酷薄な真似もできん。ダンジョンの評判、ひいては村の評判にも差し障るからな』

『村の評判ですか……』

『そこまで考えないと駄目ですか……』

『ま、シュレクがテオドラムと義絶してる現状だと、シュレクの評判が上がれば、相対的にテオドラムの評価は下がる訳だからな。ある意味で嫌がらせだな』

 そう言ってやると、皆は何となく納得したような様子だった。


『悪評のタネなど、蒔かないに越した事は無い。後々付け込まれるのも癪だろう?』

 あと、何となく哀れというのもあるな。


『そうしますとご主人様、このまま放逐なさるので?』

『いや、それだけでは悪評は立たんにしても、好意的な評価は貰えんだろう。ここはもう一歩踏み込んでだな……』

『……もう一歩?』

『踏み込んじゃぅんですかぁ?』

『……お主……何を考えておるんじゃ……?』

『いやなに、少しばかりアドバイスというか、指導してやったらどうかと思ってな』



 全員から呆れたような視線を貰ったが、そう悪い案ではないと思うんだよな。



『考えてもみろ。ローリスクで、しかもナチュラルに冒険者たちの間に紛れ込める手駒が飛び込んで来たんだぞ? 放って置く手は無いだろうが』

『あぁ……そういう……』

『確かに……今のカイトさんたちを……冒険者の中に……紛れさせるのは……一工夫……要りますか……』

『そっかー、アンデッドってバレたら大変ですしね』

『面目無い……』

『あ、逆にアンデッドってバラして、あの死霊術師(ネクロマンサー)の連れにする手も使えますね?』

『お、鋭いな、キーン。確かにそういう手もありだ』

『あのバカの従者(サーバント)のふりっすかぁ……?』

『ま、実態はお目付役に近いがな』

『まぁ……そう考えりゃぁ……』

『まぁ、その手は最後だな。お前たちがアンデッドだなんて、バレない方が都合が好い』

『と言うか……バレたら()(どころ)に疑いを持たれるじゃろうが』

『アンデッドらしくなぃですぅ』

『だよねぇ……』

『……話を戻すぞ。そういう訳で、あいつを少しは使えるようにしておいた方が、この後の事を考えると、選択の幅が広がる訳だ』

『手下にするってのたぁ、また違うんですかい? ボス』

『少し違うな。無自覚な協力者に仕立てられないかと考えている』

『無自覚な協力者……』

『あ、ルパさんみたいなのですか? マスター』

『まぁ……ルパよりは役に立ってほしいんだが……』

 あいつはなぁ……


『ご主人様のお考えは解りましたが……鍛えると言っても、具体的に何をどうすれば? 我々にも体術や剣術の稽古くらいなら付けられますが……』

『魔法ならマリアが教えてやれば良いんじゃねぇのか?』

『魔法だけならね。けど、死霊術はあたしにだって扱えないわよ?』

『あ、そうなのかよ?』

『系統というか、術の体系が違うのよ』

『けど……ご主人様が教える訳にも……』

僭越(せんえつ)ながら、宜しければ(それがし)が』

『ネス?』

『生前はそれなりに魔術を心得ていたようですし、死霊術の指導も何とかなるような気がいたしまして』


 ……リッチが死霊術師に死霊術を教える事の妥当性について、後ろの方で議論が巻き起こっているようだが……現状で他に選択肢は無いな。


『……そういう事ならネスに任せるか。他に適任もいないようだしな』

『お任せを。あの若者を一人前に叩き上げてご覧に入れましょう』



・・・・・・・・



 ……と、このような経緯(いきさつ)で冒頭の情景に至るのであった。

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