第百五十二章 怨毒の廃坑 6.結末の始まり
『かーっ! 情け無ぇ、アンデッド頼りって訳かよ』
『何だか……本末転倒のような気がします……』
『んなモン、酒でもかっ食らってりゃ良いだろうが』
魔導通信機を介して話を聞いていたカイトたちヴィンシュタット組からも、情け無い死霊術師に対して散々な評価が届いていた。己の腕一つを頼りに幾多のモンスターと渡り合ってきた彼らから見ると、若い死霊術師の思惑は、あまりにも惰弱なものに見えたようだ。
しかし、酔っ払ってしまえば気も大きくなるだろうというカイトの意見には、異見を申し立てたい。
『そうは言うがな、カイト、お前、へべれけになった死霊術師に支援を任せたいか?』
俺がそう訊くとカイトたちは寸刻黙り込んだが……
『自分なら御免蒙ります』
『あたしもちょっと……』
ハンクとマリアが辞退の意を伝えてきた。まぁ、そうだろうな。俺だってベロベロになった魔術師なんかに後ろを任せたくはない。誤爆の危険だってあるしな。
気が大きくなるのと、周囲の状況に気付かなくなるのは、似ているようで違うんだよ。
『しかし……これはどうしたもんかな』
『あの若者の処置でございますか?』
スレイ……今何か発音がおかしくなかったか?
『あのまま放り出しちまったら拙いんですかぃ? ボス』
『いや、あいつの事はそれで良いかもしれんが、村人たちにどう説明する?』
危険を顧みず不審者の捕縛に協力してくれたんだ。事情を説明する責任があるだろうと言ってやったら、眷属たち全員が黙り込んだ。
『確かに……事情をそのまま説明すると……』
『間抜けですぅ』
『ですな……村人たちも拍子抜けというか……』
『話を聞いた限りじゃ、一方的なリンチみたいでしたものね……』
・・・・・・・・
「怨毒の廃坑」の入口に姿を現した異形の人影を前に、固唾を呑んで成り行きを見守っていた――実際には廃坑の中で話が進んだため、見ようとしても見える訳では無いのであるが、気分的に――村人たちを代表する形で、村長が口を開く。
「……ダンジョン様でいらっしゃいますか?」
「いや、儂は主よりここを任されておる者の一人だ」
村人たちの前に姿を現したのは、ダンジョンから動けないオルフに代わって、爾後の渉外担当を仰せつかったネスである。異様な風体の割には威厳を持つネスは、危険な感じを与える事無く民衆を相手にする話術にも長けていた。
「その主が、此度の詮議ではそなたらを蚊帳の外に置く訳にはいかぬと仰せでな」
そう言ってネスは事の次第を――情け無い部分は適当に割愛または脚色して――伝える。身の程知らずの不心得者が挑んできたので、性根を叩き直してやるのだと。
「そなたらの身を以ての献身、主も感に堪えぬご様子であった。ただ、願わくばあまり無茶はしないでほしいとも仰せであった。そなたらには幸せになる権利があるのだからな」
粛々と述べるネスの言葉に、村人一同は心を打たれたようであった。中には肩を震わせて咽び泣いている者もいる。
伝えるべき事を伝えてその場を辞そうとしたネスであったが、一人の少女の言葉にその足を停める。
「……あのっ……!」
「何かな?」
言いたい事は山ほどあるが、それを上手く伝える術を持たない幼い少女は、ただ一言だけを伝えた。精一杯の想いを籠めて。
「……どうか、ダンジョン様に……ありがとうって、伝えて下さい」
「……必ず伝えよう」
『……言われてますよ、マス……いえ、ダンジョン様』
『キーン……お前な……』




