第百五十二章 怨毒の廃坑 5.訊問
捕虜が目を覚ましたとオルフが言うので、俺たちは揃ってそいつを収監してある区画へと急いだ。ただし打ち合わせどおり、死霊術師の前に出るのはネスだけだ。
しかし訊問する前に……
『どうだ? お前の手に負えそうか?』
クロウたちはモニターを通して、収監中の容疑者……ではなく死霊術師の様子を観察する。正体不明の相手にいきなりネスをぶつけるような、そんな浅慮な真似はしない。
そうして観察した結果……
『鑑定してみた限りでは、それほど強力な死霊術師でもないようですな。あっさりと「鑑定」が通りましたから』
彼我のレベルに差があると、下位の者は上位の者を鑑定できないのだという。なのにあっさりと鑑定が成功した事から、ネスは自分の方が優位と判断したようだ。
『ふむ……それでは、御苦労だが訊問してくれるか』
『畏まりました』
・・・・・・・・
「目が醒めたか、人間よ」
朦朧とした様子で辺りを見回していた男は、声をかけられて初めてネスの存在に気が付いたようだ。
「お前……いや、貴方が、ここの迷宮の主なのか?」
「答える必要は無いな。質問をするのは私だ、人間よ」
『おぉ……何か、堂に入ってるな』
『これぞダンジョンマスター――って感じですね』
『キーン……何か言いたい事があるのか……?』
『あっ、男が返事をするみたいですよ、マスター』
『何やらがっくりとしておりますな』
『心が……折れた……みたいな……』
ネスを前にして己の身の程を知ったんだろう。観念した様子で男が話していた。
「……何が、聞きたい?」
「全てだ。お前が何者で、どこの国の者で、誰からの依頼で、何の目的を持って、このダンジョンに入ろうとしたのか。洗い浚い話せ」
質問はおろか反論も拒否も、況や抵抗も許さない様子のネスにすっかり心を折られたらしく、ポツリポツリと話し出した。いや、話し出したのは良いんだが……
『……何か……思っていたのと違うな……』
『背後関係は無しですか……』
てっきり男はテオドラムかどこかの依頼を受けてここの調査にやって来た者で、アンデッドを使役しようとしたのはそのための手段……とばかり思っていたんだが……
『アンデッドがぁ、目的なんですかぁ』
『みたいだな……いやまぁ、死霊術師としては、ある意味真っ当なのかもしれんが……』
『思っていたより単純な理由でしたね、主様』
『まぁ……確かに、ここ「怨毒の廃坑」ならアンデッドに不足する事は無いだろうが……』
「……何も態々ここへ来ぬでも……アンデッドの一体や二体、どこでも調達できるであろうが……?」
俺もその点が不審だったんだが、男はそれにも答えてくれた。
「できるだけ強いアンデッドが欲しくて……僕の代わりに戦ってくれそうな……」
「あぁ……そういう事か……」
男がポツリポツリと告白するには、死霊術への興味から死霊術師になりはしたが、生来気が弱く荒事に向いていない。冒険者としての仕事――他に選択の余地が無かったらしい。まぁ、それもそうか――にも差し支えるので、せめて勇猛なアンデッドを得る事で、自分に足りない攻撃性を補ってもらおうとしたらしい。
……何と言うか……




