第百五十二章 怨毒の廃坑 4.リッチの前世?
しばらくするとリッチ(仮)も落ち着いた――もしくは諦めた――ようなので、俺は事の顛末と、召喚を慌てていた理由を説明して詫びた。
『……成る程。そのような理由でしたか……』
『そのせいで、お前に妙なとばっちりが行った事は謝る』
『あ、いえ、不満がある訳ではありません。何であれ生まれ変わる事ができたのは、偏にご主人様のお蔭ですし。……どちらかと言えば、生前の事を思い出せない我が身が不甲斐無いだけですな』
『生前の事は相変わらず思い出せないか? ……どちら寄りだったかぐらいは?』
人間だったのか、それとも魔物だったのか、それくらいでも判らないかと思って訊いてみたんだが……
『それが皆目。ただ、この手足の動かし方に戸惑いはありませんから、魔獣の類であったとしても、人間に化ける事はできたのではないかと……あと、名前を一つ思い出しました』
『うん? お前の名前か?』
『いえ、そうとばかりは……某を付け狙っていた仇敵の名前という可能性もありますし……』
魔獣なら自分の名前を持たない事も多い――そう言う場合は縄張りにしている地名で呼ばれるらしい。○○山の主、とか――ので、一概に自分の名前であるとは断言できないという。
『……まぁ、今は生まれ変わった訳だし、その名前を名告っておいても良いんじゃないか? 何という名だ?』
『ネス、という名です』
ネス、ねぇ……。俺が知ってるのはネッシーの棲むネス湖くらいだが……あぁ、アメリカの酒類取締局の捜査官にエリオット・ネスとかいうのがいたな。ギャングのアル・カポネ逮捕に貢献したとかどうとか……。
そんな事を考えながらふと脇を見ると、アンデッド勢が何やらひそひそ話をしている。問い詰めてみたところ、ネスというのは大昔に活躍した偉大な魔術師の名前だという。
『ふむ……と言うと、その伝説か何かが記憶に残っていた可能性もあるのか』
……当の魔術師本人なら、もう少ししっかりしていそうな気がするしな。
『ますたぁ、従魔の可能性はぁ?』
あ……
『あぁ……確かに……』
『頭になっている狼の骨が、生前魔術師の従魔であった可能性はありますな』
『それが何でここに……って謎は残りますが……』
『ネスとかいう魔術師は、従魔を従えていたのか?』
『……何分、大昔の事なので……ただ、魔物を使役して戦ったという伝説は……』
『残っている訳か……ライの挙げた可能性も無視はできんな』
だが、まぁ、どのみち昔の事に過ぎん。大事なのは今の事だ。
『それで、肝心な事を訊くが、魔術は使えそうか? あるいは少なくとも、死霊術に抵抗する事はできそうか?』
そう訊いてみると、リッチ(仮)改めネスは、
『……魔術については大丈夫、今でも使えます。それに、死霊術についても些か心得があるようですから、抵抗する事ぐらいはできそうです。まぁ、その死霊術師とやらを鑑定してみれば、力量の程は判るでしょう』
おぉ……頼もしそうだな。
ちらりとマリアに視線を走らせると、マリアは黙って頷いた。彼女も魔術師であるだけに、ネスが魔術を使えるかどうかは判るらしい。
『それでは……当初の予定どおり、捕獲した死霊術師の訊問はお前に任せる。それと……魔術の事を思い出したなら、他に思い出した事は無いのか?』
そう確認してみたんだが、ネスのやつは頭を掻きながら、
『残念ながら。ただ……』
『ただ――?』
『ここまで驚かされたのは、多分ですが生前にも無かったような気はします』
『大丈夫。ネスさんもすぐに慣れるから』
おい、キーン……




