第百五十二章 怨毒の廃坑 3.リッチ(?)登場
クロウ陣営に新キャラの登場です。ダンジョンやダンジョンコア以外の新キャラは久々のような気がします。
……後に、「怨毒の廃坑」のダンジョンコア、オルフはこう語った。
『……えぇ、見た事の無い骨が混じっていたので、気にはなっていましたが……』
――判っていて、召喚を急いだ訳ですね?
『あの時は、とにかく早急にリッチを召喚する必要があったんです』
――骨の出所を一々確認している暇は無かった?
『それ以前に、現実問題として無理でした。何しろ、テオドラムの連中が墓だとか一切構わず掘り返してしまいましたから。バラバラになっていた骨を集めて回収するのがやっとという状況でした』
――その結果、ああいう事になった訳ですが?
『こう言っては何ですが……自分でも驚きました。まさか……』
・・・・・・・・
大急ぎで掻き集めた骨の一山を素材……いや、依代にしてリッチの召喚を試みた訳だが……召喚自体は成功した。確かに成功したのだが……
『のぅ、クロウよ。あれは何じゃ?』
『だから……リッチ……なんじゃないのか?』
リッチを召喚して現れたんだから、リッチなんだろう。……違うのか?
『……確かに……確かに、雰囲気は……それらしいのですが……』
『リッチって、要するに強い魔術師とか僧侶のアンデッドですよね? 主様』
『ますたぁ、あれってぇ、何のアンデッドなんですかぁ?』
『少なくとも人間じゃありませんよね』
そう。
そのリッチ(仮)は、確かに人間とはかけ離れた姿をしていた。
黒い長衣から見えている部分が骨かミイラのように見えるのは、生者とは違うアンデッドという事でまだ理解できるのだが……
『あの……ご主人様……何で頭が動物の骨なんすか?』
『狼……かしらね?』
『自分は……魔族出身で、ダンジョンマスターとしての経歴も長いつもりでしたが……それでも、初めて見ます……』
『さすがマスターですね』
『凄ぃですぅ……』
そのリッチ(仮)は、堂々たる体格――この時点で既に文弱な魔術師の容姿とはかけ離れているのだが――の頂に、狼らしい動物、あるいは魔物の頭骨を備えており、落ち着いて、しかし興味深そうに辺りを見回していた。
『……素材に使った骨の中に、人骨以外が混じっていたようだな……』
エジプト神話のアヌビス神がスケルトンになったら、こんな感じなのか?
やがてそのリッチ(仮)は、俺の方を向くと……
『某を召喚なさったのは貴殿ですか?』
『そうだが……まず最初に訊ねたい』
……こんな質問をしたくはないし、するべきでないとも思うんだが……
『――お前は何者だ?』
『召喚者のする質問ではないのう』
うるさいな。解ってるよ、爺さま。
召喚主である俺の、やや突飛な質問を聞いて、そのリッチ(仮)は腕を組んで考え込んでいた。
やがて徐に顔を上げて言うには……
『申し訳無いが、生前の記憶がどうも曖昧で……何やら自分が自分でなくなったような、妙な感覚がありましてな……』
俺の後ろで眷属たちが、「あぁ」とか「うんうん」とか呟いている。まぁ、俺としても納得するしかないが……ひょっとして、こいつ……
後ろからそっと俺を突く者がいたので頭を巡らせると、マリアが怖ず怖ずと手鏡を差し出していた。
言いたい事が理解できたので、俺は受け取った手鏡をリッチ(仮)に渡す。
リッチ(仮)は不審そうにそれを受け取り……覗いてみて驚愕の色を浮かべた。
……いや、髑髏の顔でも表情って現れるもんなんだな。
『……一応訊ねるが……生前そのような姿であった記憶はあるか?』
『……自分が何者であったのかは相変わらず判りませぬが……少なくとも……このような姿ではなかったような……』
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