第百五十二章 怨毒の廃坑 2.訊問官の選定
大昔の伏線の回収回です。
アンデッドのダンジョンに侵入した死霊術師の訊問。確かに人選に悩みそうな問題だ。ここはいっそ、ダンジョンマスターたる俺が直々に訊問に当たるべきかと思ったんだが……うちの子たちから待ったがかかった。
『お待ち下さい……ご主人様……今まで……表に……出てこなかった……ご主人様が……ここで……姿を現すのは……如何なものかと……』
『ダンジョンマスターだと名告らずに会うのは? 駄目か?』
『いえ、抑アンデッドの巣窟である「廃坑」に、生者が出るのがおかしいんじゃないですか? 主様』
『態々面倒事に首を突っ込む事ぁ無ぇでしょう? ボス』
『万一の事があっては危険でございます。私めも賛成致しかねますな』
いや……村人たちにフクロにされるようなネクロマンサーだぞ?
『まぁ……それは確かに……』
『大したやつじゃないとは思いますが……』
どうしたものかと考え込んでいたところへ、ライが名案を投げ込んできた。
いや……名案なのか迷案なのかは判断が難しいところだが……
『ますたぁ、強ぃアンデッドならぁ、どぅですかぁ?』
『強いアンデッド……』
『死霊術師に負けないようなアンデッドって事?』
『確かにそれなら……けど、そんなアンデッドって、いたっけ?』
『……ダバルさんとか?』
『いや、ダバルはピットのダンジョンマスターだ。何かあったら一大事になる。そんな危険な目には遭わせられん』
(『……自分で訊問に当たろうとした者が、何を言っておるんじゃ……』)
(『そういうところがマスターなんですよ……』)
後ろの方で何か言っているようだが……ふむ……この際だ。いっそ、リッチか何かを召喚するか?
『……確かに……リッチなら大丈夫だとは思いますけど……』
『死霊術師を訊問するためだけに、態々リッチを召喚ですか……』
『また、凄ぇ事を考えますね……』
カイトたちはそう言っているが、悪い案じゃないと思うんだよな。召喚の過程で、対・死霊術師用のギミックか何かをオプションで付けておけば……。
(『ギミック……』)
(『オプションって……』)
(『リッチの召喚って、そういうもんなのか?』)
『けど、ますたぁ、急がなぃと駄目なんじゃぁ?』
『確かに、男が目を覚ます前に準備を整えておいた方が良いですな』
ふむ……。確かに、召喚するにしても急ぐ必要があるな。素体を用意しておけば、少し早くできるか?
『……以前にシルヴァの森のエルフが言っていたよな? 呼び出した霊魂か何かを別の屍体に乗り移らせるという話』
確か、第二次ヴァザーリ戦の後で、勇者たちのアンデッドをどうやって用意したのかという話に出てきたと聞いたが……?
『そう言えば……』
『そんな与太話も出ておったのぅ……』
(『……え? 俺たちの話なのか?』)
(『あぁ……確かに……ご主人様が黒幕だと知らない場合は……』)
(『どうやって俺たちの屍体を確保したのかって話になるわな』)
(『ダンジョン内で死んだ者は、ダンジョンに吸収されちゃいますからねぇ……』)
(『なら、ダンジョンマスターが攻め込んで来たのかって話になるかってぇと……』)
(『あのスケルトンドラゴンが問題になる訳か……』)
(『神の使いとか……一介のダンジョンマスターがどうこうできる代物ではないからな……普通に考えれば』)
(『我が事ながら……改めて聞いてみると、確かにややこしい話よね……』)
『マスター、やっちゃいますか?』
噂の当事者が後ろの方で何やらヒソヒソと話し込んでいるが、そういったアレコレをばっさり切り捨ててキーンが訊いてくる。……いや、お前の言い方にはちょっと引っかかるものがあるんだけどな、キーンよ。
それはともかく……
『憑依させる依代として、思念の残っていない古い骨を纏めて素体を創るか……』
ここならその手の屍体や白骨には事欠かん筈だよな。
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