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第百五十一章 王都イラストリア 5.氷室

少し短いです。

 ここのところ王都の住民は、自分たちの町の一画に新たに造られた建物に興味津々であった。



「あれが新しい氷室かい?」

「でっけぇなぁ」

「けどよ、何でまた都にあんなでけぇ氷室が()るってんだ?」

「何だね、お前さん知らないのかぃ? 五月祭でエルフたちが冷えたビールを売り出したって話」

「いや……聞いちゃいるが……て事は何か? あの氷室は酒を冷やすためのものか?」

「酒とばかりは限らんだろうがな。冷やすと食材の()ちが違うって話だ」

「……あれ? あの氷室は酒造ギルドのもんじゃなかったか? 酒造ギルドが酒以外の食材にも手を出すのか?」

「まさか。恐らくだが、最初は酒……ビールかエールで試してみて、それから酒以外の食材にも広げていくんじゃないか」

「ここだけの話だが……山の方の氷室は国軍が(こしら)えたって話だ」

「え? 氷室って、ここだけじゃないのか? 山にもあるのかよ?」

「あんたねぇ……ここの氷室に運び込む雪は、どこから持って来ると思ってんだぃ。王都近くの雪をちまちま掻き集めて、それで間に合うと思ってんのかぃ?」



 こういう光景が、王都のそこかしこで見られたのである。



「倉庫と言っておいたのに、バレバレだな……」

「仕方あるまい。馬車に雪を積んで運び込むのを見られているんだ。隠そうったって隠しおおせるものでもなかろうよ」

「あれだけの雪を運び込んでおいて、今更倉庫でございと言い張る訳にもな……」

「しかし……酒だけでなく、他の食材も扱う事まで見抜かれたか……」

()(せい)にも勘の良いやつがいるという事だろう」



 王都の氷室は酒造ギルドの主導で建てられたが、そこに運び込む雪は、山間部に別途造られた氷室から運び込まれる予定である。

 現在は近場の雪を搬入して、試験的に酒やその他の食材を冷蔵している状況であった。試験のために酒以外の食材を運び込んだところを見られたのかもしれない。



「いや……確実に見られているだろう。版画が出回っていたくらいだからな」



 ボルトン工房が売り出したシャルドの、そして岩窟の版画に刺激されたのか、このところ各地の名所旧蹟の(たぐい)を小さな――地球風に言えば葉書サイズの――版画に仕立てて売り出す者が増えていた。ここ王都の氷室もその例外ではなく、氷室の外形や、雪を運んでくる馬車などの光景が版画として売り出され、そこそこの売れ行きを示していたのである。



「あぁ……そう言えば、荷物を運び込むところを()かれたんだったな……」

「肉や野菜を積んだ馬車がしっかりと(えが)かれていた。否認はできない状況だな」

「そうなると……酒造ギルドの氷室の筈が、なぜに酒以外のものを扱うのかという事になって……」

「酒造ギルド単独でなく、他の商人たちも一枚噛んでいる……そう結論するのは難しくない。更に、なぜ他の食材を扱う者までが氷室に関わるのかと考えると……」

日保(ひも)ちの点に辿(たど)り着くのは容易か……」

「そうすれば、これが軍の兵站(へいたん)に関わる事、(ひっ)(きょう)、酒造ギルドや商業ギルドに任せられる案件ではない事にも気付く……か」

「まぁ、幸いにして可搬式の冷蔵箱(アイスボックス)の開発も間に合ったようだし……」

「それが救いだな……」

次話からはクロウたちの話に戻ります。

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