第百五十一章 王都イラストリア 3.古酒をめぐって(その2)
古酒に関する問題点の二つ目を説明しようとしたウォーレン卿であったが、困惑と迷惑の思いを隠そうともしないローバー将軍の声に妨げられる事になる。
「おい! まだあるのかよ!?」
「そう言えば二つあると言うておったな……」
「少なくとも二つ、です」
訂正の言葉にげっそりとした一同の様子を斟酌する事無く、ウォーレン卿は言葉を続ける。
「二つ目ですが……エルフたちはどうやって古酒を入手したのでしょう? そして、なぜ今なのでしょう?」
「「「?」」」
不得要領な顔の三人であったが、やがてローバー将軍が口を開く。
「海にエルフの同類か何かがいるんじゃねぇのか?」
「これまでにそんな話をお聞きになった事は?」
「……無ぇな、確かに」
これが、山林で何かを見つけ出したというなら別におかしくはない。そこはエルフや獣人の領域だ。しかし、海の底というのは……
「……言われてみれば、どうやって入手したのだ?」
「ドワーフやエルフにゃ難しい気がしますな。……海棲の獣人でもいるんですかね?」
「しかし……だとしても、確かにこのタイミングで古酒を持ち込むというのは……」
「ふむ……砂糖、冷蔵箱ときて、今度は古酒。些か立て続けに過ぎる気はするのぅ……」
「……Ⅹか……?」
「何もかもⅩのせいにするのはどうかと思いますが、しかし……」
――少し、違う。
抑古酒の一件には亜人たちは絡んでいないし、砂糖や冷蔵箱と同列に扱うべきものでもない。
クロウが大量に手に入れた古酒を捌くための、伝手に使われただけである。こういうタイミングになったのも、別に意図した訳ではない。
「Ⅹの手下にゃあ船もあるって事か……」
「そこで次の疑問が出てきます。なぜ、Ⅹは船など持っているのでしょうか?」
こうなると、イラストリアの商人たちが言いだした〝海外からの侵略〟説を笑えない。砂糖だけならともかく、今回の古酒の件は問題である。亜人たちの話が本当なら、あれらの古酒は沈没船から引き上げられたもの。船が無いと入手は不可能な筈である。
「Ⅹがこの大陸の者なら、船を持っている必要は無ぇか……」
「沿岸国の出身という可能性はありますけどね。ただ、これまでに挙げてきたⅩの属性を考えると、他の大陸出身という話は無視できなくなります」
異なる大陸という言葉どおりの意味でなら、ウォーレン卿の指摘もそう間違ってはいない。ただ、卿の想定よりも、遙か斜め上にずれているだけである。
「……そうなると……Ⅹが率いる船というのも、一隻二隻ではないかもしれぬな?」
「はい、船団を組んでいる可能性も無いとは言えませんが……」
二隻だけである――水準から大きく外れてはいるが。
「……ただ、そういう不審な船団の話は聞こえてきませんから、現時点で活動している船は多くないのかもしれません」
「しかしよ、ウォーレン。多くないっつっても、得体の知れねぇ船がありゃ、何かしら噂は聞こえて来るんじゃねぇのか?」
「はい……何者かが秘匿していない限りは」
「おい……まさか……」
「あくまで可能性の一つではありますが、沿岸国家が関与、もしくは協力している可能性があります」
クロウが考え無しに放出した古酒は、妙なところへまで影響を及ぼし始めたようである。




