第百五十章 オドラント 6.眷属会議~新たなる戦略指針~(その3)
『冬のうちにめぼしい盗賊どもの根城とダンジョンの位置を絞り込んでおいて、雪融け早々に探し出したいが……』
『何か問題でも?』
『人手がな。アンデッドたちの人海戦術に頼るにしても……』
『ふむ。どこから送り出すかという事じゃな?』
『それもあるが……そっちは最悪、俺がダンジョンゲートを開くという手もある。問題は、送り出した連中を何に偽装するかだ』
そう言ってやると、数名が納得したような顔をした。
『確かに……アンデッドとばれないにしても、ぞろぞろと大人数で行動していれば目立ちますか……』
『そういう事だ。何か良い知恵は無いか?』
しばらく協議に及んだ結果、商隊とその護衛という体裁をとるしか無かろうという話になった。実際に商売をする必要は無く、単にそう見えさえすれば好いのだから、それ程難しくはないだろう。
『しかしご主人様、商隊となりますと、馬車が必要なのではございませんか?』
あ……それもそうか……。
『いえ、馬車なら何とかなると思います』
ペーター……?
『テオドラム軍侵攻部隊が率いてきた馬車が――残骸になってはいますが――オドラントのダンジョンに保管してありますから。数台なら復元できると思います。馬もそれくらいなら確保していますし』
あぁ、そう言えば……侵攻部隊の痕跡を残す訳にはいかないから、逃げ出した馬たちも可能な限り掻き集めて、オドラントのダンジョン内で飼育していたっけな。地球産の飼料は与えてないから、フェイカーモンスターにもなっていない。アンデッド化した兵士たちに懐くかどうかが心配だったんだが……
『別に問題はありません。最初のうちは少し警戒していたようですが、今は生前と同じように言う事を聞いてくれますし』
最悪、俺が屍体から蘇らせる事も考えていたから、これは嬉しい話だな。
『ふむ……なら、外回りの連中には、万が一の事を考えて、使い捨てのダンジョンゲートを渡しておくか。荷物を運び込む時にも使えるだろう』
ペーターは恐縮していたが、配下の安全を考えるのは上司の義務だろうに。
『んで、どの辺りを狙うんすか?』
『それこそギルドの情報次第だろうが……そうさな、探すなら南か? 暖かい分、雪融けも早そうだからな』
まぁ、大まかな方針はこんなところなんだろうが……
『一応の方針は決まったが、カイトたちの場合はもう一つ問題があるな』
『へ?』
『……何かありやしたか?』
気付いてなかったのか……。
『お前たちが他所へ出ている間、ヴィンシュタットの屋敷はどうするつもりだ?』
『『あ……』』
『拠点を空ける訳にもいきませんよね?』
『かといって、使用人だけ残す訳にも……』
『留守番が必要になるという事ですね』
おぉ……ハンクたち三名はちゃんと気付いていたか。
『あの……それって、ペーターの旦那とかに頼む訳には……』
『断固として拒否する』
おいおい、甘党のペーターが製糖工場から動く訳が無いだろう。極楽だなんて言ってるんだぞ? ……まぁ、死後の生活を送っている場所には違いないが……。
『そういたしますと……誰を留守居役に当てるおつもりでございますか?』
『一応は貴族という触れ込みだからなぁ……貴族としての振る舞いとかに詳しい者の方が良いだろう』
『ますたぁ、兵隊さんたちの中にぃ、貴族ってぇ、いますぅ?』
……難しいか?
『遺憾ながら、配下の中には貴族関係者はいなかったと思いますが』
『とすると……どこかから調達する必要があるのか……』
『調達って……』
『どうするおつもりですか? 主様』
『そりゃ、どっかから貴族の怨霊か何かを探し出して、復活させるしか無いだろう』
『また……突拍子も無い事を言い出しおったのぅ……』
『他に代案があるのか? 爺さま。あると言うなら聞くぞ?』
『むぅ……そう言われると、返す言葉が無いんじゃが……』
そんな事を話していたら、「怨毒の廃坑」のオルフから緊急通信が入った。
『クロウ様、お寛ぎのところ、申し訳ありません』
『何があった? オルフ』
『廃坑に侵入しようとした死霊術師が、村人たちに袋叩きにされて、突き出されてきました』
……どうして、こういう妙な事態ばかり起きるんだ?




