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第百五十章 オドラント 5.眷属会議~新たなる戦略指針~(その2)

 傘下に置いたアンデッド部隊の運用の効率化を図るためという――あまり聞かない――理由で、ダンジョンの増設を決めたクロウ。であれば、新たなダンジョンの設置場所は、交通の便という条件を念頭に置いて選ぶ必要がある。これもまた例外的な条件であった。

 そういう――やや特殊な――条件を満たす場所を探し出すのはそれなりに手間だが、今のクロウには三桁におよぶ配下がいる。彼らを上手く使えば何とかなるのではないだろうか――クロウはそう楽観していた。



『いや……(そもそも)その配下の運用が窮屈じゃから、新たなダンジョン設置などという話になったのじゃろうが』

『それは確かなんだが、多少は窮屈でも不可能という(わけ)じゃない。それ以前に、一々俺が出向いて調べる訳にもいかんからな』

『ふむ……具体的にどういう場所が望ましいんじゃ? そして、どうやってその情報を探るつもりでおる?』

『前者については一応の腹案はあるが、皆の意見も聞いてから(まと)めてみたいな。そして後者についてだが、場所の条件が固まらんと決めようが無いだろう?』

『ふむ……道理じゃな。で? どんな条件を考えておるんじゃ?』

『まずは……アンデッドたちが出入りしても気付かれないか……もっと好いのは、不特定多数が出入りしても不審に思われない場所だな』

 これは大前提だろう。


『そうしますと……ご主人様、後者の場合はダンジョンという事になりますが……?』

 ……あれ……?


『他には……? 旅行者が野営に使いそうな廃墟とかは無いのか?』

『そんな都合の好い廃墟なぞ知らんわ。第一、そんな有名な廃墟であれば、人目もそれなりにあるじゃろうが』

『いや……そこは人のいない隙を見計らって――とか、な?』

『運用に……制限が付くのは……避けられ……ません』

(そもそも)、心当たりが無いんですけど』

 う~む……これはいきなり頓挫したか?


『そうすると……人目に付かない場所になるか』

 これなら場所に困る事は無いだろう。


『あの~……マスター、確かに、人目に付かない場所っていうのは、多いですけど……』

『そういう場所は大概が、交通の便も悪いじゃろうが』

 あ……



 議論の大前提が崩壊して固まっていたクロウであったが、ここでエメンから救いの手が差し伸べられた。



『ボス、盗賊どもの隠れ家ってなぁ駄目ですかい?』

『盗賊だと……?』



 エメンが提案したのは、街道を通る商人などを襲っている、盗賊たちのアジトを奪ってはというものであった。



『そういう盗賊どもなら、狩り場にしている街道筋までの道は勿論、逃げ道の一つや二つは確保してるもんですぜ』

 成る程……。


『……そうすると、(しょ)()は街道筋に出没する盗賊の情報を調べる事になるのか?』

『それでしたら、冒険者ギルドに行けばそれなりの情報が得られると思います』

 ふむ……俺が滞在中のバンクスで、馴染みの商人から聞き出す手もあるか……


『あの……どうせ冒険者ギルドに行くんでしたら、ダンジョンの情報も調べられると思いますけど……』

 うん……? 俺のところ以外にもダンジョンが……いや……別にあってもおかしくはないか。しかし……


『マリア、テオドラムには他にダンジョンがあるのか? 無いと聞いたような気がするんだが』

『はい。テオドラムにはありませんが、テオドラムの周辺国には幾つか』

『成る程……しかし、現在の状況を考えると、あまりテオドラムから離れた場所に出入り口を作っても活用しにくいんだが……』

『はい。ですが、テオドラムを包囲するように、周辺国にダンジョンを造る事はできるのではないかと……』

 むぅ……確かにそれは重要か……


『僭越ながら、提督(アドミラル)(しょう)()(きゅう)という訳ではありませんが、いずれは海辺にもダンジョンを造って戴けると……』

 あぁ……クリスマスシティーやアンシーンの運用を考えると、そういうものも必要か。


『解った。沿岸部のダンジョンはいずれ作成するとして、当面は周辺国のダンジョンを優先したい。それで好いか?』

『はい』

『勿論異存はございません』

『……のぅ、クロウよ。沿岸部と一口に言うが、随分と距離が開いておらんか?  ダンジョンゲートを開くのに問題は無いのか?』

『ん? 別に問題無いと思うぞ? 何か問題があれば、途中に中継点を設置するだけだしな』


 そう言ってやると、なぜか爺さまは黙り込んだんだが……


『ともかく、当面の方針はこれで良いな? 何か異論のある者はいるか?』

 そう訊いてみると、キーンのやつから質問が上がった。


『手頃なダンジョンがあったら、征服するんですか? マスター』

『何でだ? ここは友好を深めるところだろう?』

 誰がそんな面倒な事をするかよ。……手土産用に魔石でも増産しておくか。


『……そうですな……魔石は有効だと思います……』

『あの量を見せられては、馬鹿な考えも起こさないでしょう……』


 ……何だ? フェルとダバルが妙な声色(こわいろ)で同意しているんだが……他の皆も(うなず)いているな……まぁ良いか。


『詳細は冒険者ギルドでの聞き込み待ちとして……盗賊の根城に心当たりはあるか?』


 そう言うと全員が微妙な顔をしていた。訊けばテオドラムという国は統制経済が進んでおり、食糧や必需品の多くが配給制で、運搬自体も軍が行なうのだという。国内では(まかな)えない燃料その他の資源については、国から依頼を受けた他国の商人が運ぶ事もあるようだが……


『そういう商隊は規模も大きく護衛の数も多いので、盗賊たちの手に余るようです。時には軍が護衛に付く事もありますし』


 結果として、盗賊たちが狙えるような手頃な獲物が少なく……


『テオドラム国内の街道筋では、盗賊が出たという話は聞きませんね』

 そうすると、隣国の盗賊どもが狙いという事になるのか……待てよ?


(そもそも)、盗賊って冬はどうしてるんだ? 雪が積もると商人たちの動きも低下するだろう?』

『さぁ……やっぱりどっかに移動してるんですかね?』

『なら、冬はアジトも(もぬけ)の殻か?』

 だとすると、今のうち……は難しくても、雪解け早々にアジトを見つけ出して接収するのが楽か? ふむ、これは考えてみる必要があるな。

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盗賊って、季節労働者だったんだ… 考えたことなかったよ。
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