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第百四十九章 災厄の岩窟~出水~ 1.テオドラム側陣地

『クロウ様! 「災厄の岩窟」で水害が発生しました!』

『はあっ!?』


 ケルからの急報を受けて「災厄の岩窟」に転移して来た俺が目にしたのは、急激な(しゅっ)(すい)に慌てふためいて逃げ惑うテオドラム兵の姿だった。


『……一体何が起きた? 説明しろ、ケル』



・・・・・・・・



『……つまり何か? あいつら、坑道掘削中に運悪く――いや、水脈を発見したのだから、運好くなのか?――水脈にぶち当たったって訳か?』

『はい……まさかこのような事になるとは……』



 テオドラム兵が坑道を掘っている場所は、厳密に言えばダンジョンの範囲から外れている。と言うか、(そもそも)ダンジョンの壁であれば掘削など不可能である。クロウたちはテオドラム兵をダンジョンの奥に誘導して開削させ、できた坑道を順次ダンジョン化していくという方法で、労せずダンジョンを拡大できていた。

 テオドラム兵にしても、坑道がダンジョン化される事で崩落の危険が無くなるのだから、必ずしも悪い話ではない。これでダンジョンモンスターに襲われでもすれば話が違ってくるのだろうが、クロウにしても折角の労働力を害するつもりなどさらさら無かった。相応の数のテオドラム兵がダンジョン内で活動するだけで、案外な分量の魔素を回収できるのだ。ある意味でWin-Winの関係が成立していた。


 ――しかし、こういう事態になってしまえば話は別である。



『とりあえず自分の判断で、浸水範囲はダンジョン化しました。事後承諾になってしまい、申し訳ありません』

『いや、良い判断だ。この場合はそれしか無いだろう』


 (くだん)の階層は既に水浸しだ。坑道としてはもはや使用できないし、テオドラムの連中にしても再挑戦する気は無いだろう。ここは安全を確保する意味でも、ダンジョン化しておいた方が良い。


『……新たに水場ができた事で、水棲のモンスターを召喚できるようになった、そう前向きに考えるとしよう……』



・・・・・・・・



 クロウが現状の把握に努めている頃、テオドラムの兵士たちも混乱から脱しつつあった……貴重な犠牲を払って。



「……被害は何名だ?」

「現在まで確認できたのは十一名です。……(しゅっ)(すい)の現場がかなり奥にあったため、脱出と救出に手間取りました」

「そうか……遺体の回収は?」

「現状では難しいでしょう。下への入口は封鎖しましたし」



 逃げ遅れた兵士たちは、既にダンジョンの(かて)となっている。なので、どのみち屍体は回収できないのだが。



「この後はどうしますか?」

「最終的にはお偉方の判断待ちだが……とりあえず、水が出たのと反対方向に進む事にする」

「現場から遠離(とおざか)(わけ)ですね?」

「あぁ、そうだ。これ以上(しゅっ)(すい)の危険を(おか)(わけ)にはいかん。とりあえず現場から離れておけば、再度水脈をぶち破る危険はそれだけ減るだろう」



 上官の判断を妥当なものとみた下士官は、気になっていた事を確認する。



「今回の(しゅっ)(すい)ですが……以前に見付けた水脈と同じ流れでしょうか?」

「さてな、この水脈が以前に見付けた水脈と繋がっているのか、それとも全く別の流れなのかは判らんが……新たな水源を確保できたとしても、我々が置かれている条件に何か変化があるか?」



 上官の答えを聞いた下士官は、やや意外そうな(おも)()ちで問い返す。



「今回の水量は、前回の水源から得られる以上に豊富です。多少の危険はありますが、遣り方次第では水資源として充分役に立つと考えますが?」

「確かにな。その点は認める。ただ……俺たちの水事情が改善したとしてもだ、拠点の拡大までは難しいだろう。下手に兵力の増強などしてみろ。ダンジョンマスターがどう反応するか判らんぞ?」



 ノーデン(バカ)男爵のところの兵隊みたいになりたいのか、という上官の問いかけに、下士官は(いな)と答えるしか無かった。



「そういう(わけ)で、今回の(しゅっ)(すい)で方針が大きく変わる事は無いだろうよ」



 上官の託宣(たくせん)に下士官としても納得するしか無かったが……しかし、そう考える者ばかりではなかったのである。

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