第百四十八章 テオドラム 1.テオドラム王城(その1)
「……マーカスが?」
「うむ。詳細は不明ながら、明らかにダンジョン内で何かを探している節が見えるそうだ」
テオドラム王城の会議室で、国務卿たちは現地からの報告に困惑と、そして微かな焦りを覚えていた。
「……やつら、何かを掴んだのか?」
「いや、その点がどうも曖昧でな」
「どういう事だ?」
訝しげな様子の一同にレンバッハ軍務卿が説明して言うには……
「……成る程。ダンジョンに入る兵士の数は明らかに増加し、何かを探している様子が窺える。しかし、我々のウォーピックのように特別な器具を支給するところまでは至っておらず、何かを採掘している様子も無い……」
「……情報から判断すると、『何か』を発見した訳ではなさそうだな」
「うむ、『何か』があるという確信を抱いた、そういうところか」
正確に言えば、マーカスはダンジョンの奥――クロウとケルが粗い坑道や空間を下作りしただけでダンジョン化はしていない領域――を掘削して褐鉄鉱を発見していた。ただ、あくまでサンプルの採集程度にとどめていたため、テオドラムはその事を把握できていなかった。
マーカスとしても、さして品位の高くない湖沼鉄に大して執着は無く、採掘するつもりは端から無かった。ただ、テオドラムが確保した――と、マーカス側は思っている――鉄鉱床の規模と品質を確認したいだけである。
一方で肝心のテオドラムは、鉄鉱床の存在を知らなかった。褐鉄鉱が葦などの抽水植物の根の周りに集積する事、言い換えれば湖岸や湿地などの比較的水深の浅い範囲に限られる事を考慮すれば、この事はさして不思議ではない。要するに、マーカスが調べたのは太古の湖の湖岸近く、対してテオドラムが掘っているのは湖の中央近くであった――現在は湖岸を目指して移動しているが――というだけの事である。
ともあれ、こういった双方の認識の食い違いから、両者は互いに相手の意図を誤解するに至ったのである。
「問題は、その『何か』が何なのかという事だが……」
「専用の道具を支給していないのは、マーカスはその『何か』さして重要視していないという事か?」
「いや、そうとばかりも言えん。『何か』の事を知ったのが最近のため、支給が追いついていない事も考えられる」
「マーカス兵は短い槍を抱えてダンジョン内に入っていったそうだ。出てきた時には穂先が土で汚れていたそうだから、穴掘りに使ったのは明らかだ」
「一体、どれだけの範囲を掘り進めたのか……」
「最初に様子がおかしいと気付いたのは……報告によると、丁度我々が採掘場所を変えるように指示してから五日ほど後の事だな。尤も、この時はそれほど目立つ活動はしていなかったようだが」
「明らかにおかしいと気付いたのは?」
「それから十五日ほど経ってかららしい」
「十五日か……」
「水脈の一つや二つは見つけていてもおかしくないな」
ジルカ軍需卿の発言に、むぅと考え込んだ一同であったが……
「だが……マーカスは水脈を探していたのか?」
ラクスマン農務卿の言葉に反応したのは、マンディーク商務卿である。
「? 確かにあの国は我が国に較べて水資源は豊富だが、だからと言って、ダンジョン内で水資源を得る機会を軽視するとも思えんが?」
「あぁ、すまん、そう言う意味ではないのだ。水資源があるという情報だけで、現地の指揮官はダンジョン内に兵士を探索に差し向けただろうかと、それが気になってな」
ラクスマン卿の言葉に、それは確かに、と頷く一同。自分たちはマーカスに水路を閉鎖されているが、上流側にいるマーカスは、水に不足する事は無い筈だ。態々ダンジョン内まで井戸掘りに行くかと言われると、動機としては弱いような気がする。
「まさか……石炭の事に気付いたのか?」
「いや、それなら逆に熱意が低過ぎんか? 向こうの陣地にも、大きな変化は無いのだろう?」
「……同じ理由で、ミドの国絡みの発見、という線も消えるか……」
「マーカスがさして熱心にならず、かといって無視するでもない『何か』か……」
まさかマーカスが、自国には必要無いがテオドラムにすんなり渡すのは業腹だ――という子供じみた動機で、鉄鉱床の調査をしているなどとは夢にも思わない。
かくてテオドラムの国務卿たちは、マーカスの動きに揃って首を捻るのであった。




