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第十六章 ドラゴン 2.迎撃

ドラゴン戦の結末です。

2018.08.15 クロウの攻撃方法についてのくだりを加筆修正しました。

 即座に全員でクレヴァスに移動。迎撃の準備を整える。クレヴァス組はまだ能力的に不安なので、初撃は俺と洞窟組で行なう。クレヴァス組は第二陣だ。


 ドラゴンは地上に舞い降りると俺たちを馬鹿にしたように(にら)んで、咆吼(ほうこう)を上げた。ラノベなんかじゃ咆吼(ほうこう)で身が(すく)む云々というのが定番だが、実際にはそんな事は無い。空威張りを馬鹿にするように見返してやると、(かん)(さわ)ったかのように、無用心にこちらへ向かって来た。



 実際は、ドラゴンの咆吼(ほうこう)には敵を萎縮させる効果がある。若いドラゴンではあったが、このドラゴンの咆吼(ほうこう)もそれなりの効果を持っていた。ただ、それを聞いたクロウと洞窟組が揃いも揃って馬鹿げた魔力の持ち主であったため、何の効果も受けなかっただけである。

 この時点でクロウ一味の力量を悟る事ができていれば、若いドラゴンにも生き残る目はあったかも知れない。しかし、現実は愚か者には非情であった。



『予想通り……若い……ドラゴン……ですね』

『あぁ、その上、世間知らずだ。何の警戒もなく歩いて来る。教育してやれ』


 俺の号令一下、キーンの火球が糞ドラゴンの眼前に出現する――というか、あのサイズでは頭を呑み込むと言った方が正しいか。不意を()かれたドラゴンは、驚きと苦しみで咆吼(ほうこう)――いや、悲鳴を上げた。その隙を()いて幾つもの岩塊がドラゴンの体に叩き付けられる。頑丈が取り柄のドラゴンだ。ダメージはそれほど無いかもしれんが、反撃の(いとま)はつかめまい。


 狂ったように頭を振って、ブレスを吹こうというのか口を開けたまさにその瞬間、ライの高速水流がドラゴンの口内に突き刺さった。

 ライの高速水流は、岩ぐらいなら簡単に切り裂くからな。ドラゴンも口の中まで硬い表皮に覆われてはいまい。あの様子じゃ、口内だけでなく喉まで届いたな。口から血を吐いている。



 ドラゴンの目に宿るのは、怒りか恨みか……それとも(おび)えか。しばしクロウたちを見据えた後、一旦距離を取ろうというのか、翼を広げて舞い上がった。



 中二ドラゴンは空に飛び上がると体勢を整えた。こちらの攻撃の届かない位置から悠々と反撃するつもりだろう。だがな、そっちが空を飛ぶつもりなら、こっちにもそれ用の奥の手ってやつがあるんだよ。


 かねてから俺たちはドラゴン相手の戦術について検討していた。その時俺が問題にしたのは、最大の魔力量を持つ俺が放出系の魔法を全く使えないという事だった。眷属(うちのこ)たちも大分強くなりはしたが、まだドラゴンを――逃さずに――狩るのは難しいだろう。攻撃の射程はドラゴンの方が長いだろうしな。

 つまりドラゴンを狩るためには、早い段階でドラゴンの飛翔力・機動力を奪う攻撃が必要だ。

 俺が飛行術で突撃するという案は、()(じょう)に載せる間も無く却下された。まぁ、俺だってあまりやりたい戦法じゃない。

 代わりに思い付いたのが急降下爆撃――急降下の運動エネルギーを乗せて弾体を発射するという方法だが、しばらく検討した後でこれも却下。急降下爆撃は予め敵よりかなり上空に占位する必要があるのと、何より空中を自在に飛び回る相手(ドラゴン)に命中させるのは至難の業ではないかと言われたためだ。ハヤブサが小鳥(えもの)を狩る事を考えたら、あながち不可能ではないと思うんだが……正直、運動神経には自信が無いので黙っていた。

 次に、風魔法で弾体を投射するという案が出されたが、実験の結果これも棄却された。風魔法で発進のエネルギーを与える事はできたが、継続して推進力を発生させる事ができなかったからだ。少なくとも現在の俺の風魔法では、高速で遠離(とおざか)って行く相手に推進用の風魔法をかけ続ける事はできないようだ。すぐに照準から外れるんだよな。

 それでは、途中まで俺が抱えて飛んで行って、途中で手放すのはどうか。飛行中に俺だけが転移すると、運動エネルギーはそのままに運動体の質量が低下する事になる。エネルギー保存の法則から、消失した質量を動かす分のエネルギーは弾体の速度を高めるために使われる筈だ。俺が消えた事によって空気抵抗も急減するし、速度が急上昇する事になるだろう。不意を()く事はできる筈だ。

 ただ……俺一人分の質量が消えた事が、実際にどれだけの効果を及ぼすかというと……。弾体の質量に対して俺の質量が小さい場合は、消失の影響は誤差の範囲に収まる気がする。つまり、速度の急上昇を期待しようとすれば、弾体は小型軽量である必要があり、それはつまり打撃力が小さくなる事を意味する。高速で飛行する事を考えると、転移のタイミングもかなりシビアなものになると予想され、この案もお蔵入りとなった。

 最終的な結論として、弾体をダンジョン壁で作製して、その固有の能力を活かすしか無いだろうという事になった。

 ダンジョン壁固有の能力と言えば、加えられたエネルギーを即座に吸収して攻撃を無力化する事だ。飛行魔法の実験中に気付いたんだが、「壊れたダンジョン」のスキルでダンジョン壁を生み出す場合、吸収するエネルギーの種類を指定する事ができた。デフォルトで引力を中和しない設定になっていたのと同様に、物理的な衝撃を吸収しないように設定すれば、ダンジョン壁を弾体として使う事に問題は無い。どうもこれ、ダンジョン壁を攻撃に使う場合の仕様らしいな。

 重力のエネルギーを吸収して無効化すれば、重力の支配を振り切って宇宙空間に飛び出す事もできる。地球の自転速度は毎秒約〇.四七キロメートル、時速にして一七〇〇キロ、およそマッハ一.四。一日の長さや重力などを体感で(はか)る限り、この世界も地球と似たようなもんだろう。それだけの速度を与えられた破壊不能の砲弾は、ドラゴンにとっても充分な脅威となる筈だ。

 これならいけそうだと安心していたんだが……()く考えてみると、自転速度がそれだけ大きくなるのは赤道の場合だ。ここはヨーロッパに近い気候をしているから、それなりに高緯度だと考えられる。その分だけ自転半径は小さくなる。つまり、速度も低下する。有効な打撃を与えられるかどうか怪しくなってきた。

 だったらいっそ公転運動のエネルギーも吸収させるかと考えたんだが、慣性系とかの面倒な問題をクリアしたとしても、地球の場合で公転速度は毎秒約三十キロメートル、時速に直すと十万キロ以上。空気抵抗を考えると、いくら弾体が小さくても洒落(しゃれ)にならん衝撃波が発生しかねん。て言うか、一番危険なのは射手の位置にいる俺じゃねぇか。そんな物騒な真似、たとえ実験でもやるのは御免だ。


 一度は途方に暮れた俺たちだったが、ダンジョン壁の能力を子細に検討していったところ、ダンジョン壁は吸収したエネルギーを放出する事も可能だと判明した。ただし、これは本当に放出するだけで、エネルギーを一定の方向に指向させる事はできないようだ。その唯一の例外が重力――と言うか引力――だった。

 万有引力という性質のゆえか、引力のエネルギーを操作する場合にのみ、エネルギーの向きと目標を指定する事ができた。早い話がホーミングミサイル。これなら外れる心配は無いが、問題は速度と打撃力だ。弾体の位置エネルギーを吸収して、それをそのまま運動エネルギーに変えて飛ばす訳だが……何回か試してみたところでは、どうも自由落下の場合と同じように加速されるようだ。確か、物体が五十メートル落下した場合の速度は、空気抵抗を考えなければ最終的に時速百キロ以上、三十メートル落下でも八十キロ以上に達したはず。実際には空気抵抗があるから若干落ちるだろうが、百キロ近い速度が得られるなら、追尾性能もあるし何とかなるだろう。

 弾体の材質はダンジョン壁だから、密度や重量は俺が自在に設定できる……(そもそも)この時点で物理法則が軽視されているような気がするが……考えまい。


 ……おっと、回想に(ひた)っている場合じゃなかったな。


 俺は「壊れたダンジョン」のスキルでダンジョン壁を五つ作り出すと、バレーボールほどの球形に整えた。尖らせた方が貫通力は増すだろうが、ドラゴンの巨体に較べたら所詮(しょせん)小口径弾(まめでっぽう)だ。なまじ貫通を狙うより、貫通はさせずに運動エネルギー全てを衝撃として叩き込んだ方が効果的だろう。

 狙いを定めて引力を中和し、ついでに風魔法も使って初速を上げてやると、五発の砲弾はドラゴンに向かって加速しつつ飛んで行った。次第に速度が上がる弾体も目標を追尾する弾体も初見だったらしく、ドラゴンは(ろく)に回避もできずに五発の砲弾をまともに食らった。ぶつかった時の衝撃は中和される事無く、ドラゴンの鱗を突き破る。右の翼の付け根に一発、左の翼に一発、左の脇腹に一発、右脚の膝に一発、そして鳩尾(みぞおち)に一発。これでやつの機動力は奪った。あとは地上に()ちたドラゴンを狩るだけだ。

 落下したドラゴンが口を開けたのはブレスを吐くつもりか。だが、突然苦しむように火を吹きながらのたうち回る。キーンがやつの喉の奥に火球を生み出したな。あれではさすがのドラゴンも(たま)るまい。ブレスは喉の奥から吹くんじゃなくて、口の前に生み出したものを噴き出すようだからな。喉の奥は火に対する耐性が無い筈だ。


 追い討ちをかけるように、耳から赤い水が流れ出す。ライが高速水流を耳の中に打ちこんだか。最低でも内耳、ことによると脳までいってるな、あれは。ロックバレットが嵐のように、眼を、鼻先を、傷口を襲う。スレイとウィンだろう。クレヴァスのダンジョンに株分けした、ハイファの分身も加わってるか。


『よぅし、総勢でかかれ! 楽にしてやれ!』


 俺の号令一下、それまで控えていたクレヴァス勢も攻撃に加わる。火魔法に水魔法、土魔法の乱舞が、狂ったようにドラゴンを打ちのめす。しぶとく抵抗していたドラゴンも、腹の内側から火に(あぶ)られては(こら)える事もできず、やがて沈んだ。



・・・・・・・・



『よ~し、お疲れさん。早速、新鮮な肉でパーティだ。人間に気付かれんうちにこの場をダンジョン化して収納するから、一旦クレヴァスに戻れ』

『ご主人様……クレヴァスでは……狭すぎて……全部を……収納し切れません』

『あぁ、だから洞窟の第二階層に運び込む。ダンジョンゲートを開けば、ここから直行できるだろう』

『どうやって……ドラゴンの肉を……切り分けますか?』


 あ……ドラゴンの皮って、硬いんだっけ……。


 結局ライたちスライム勢が、傷口から侵入して皮と身を剥ぐように侵蝕する事で、何とか()き身にする事ができた。 

 皮は後から何かに使うか。動物の皮は(なめ)して革にしないと、そのままでは使えない。地球世界ではタンニン(なめ)しとクロム(なめ)しが一般的だが、スライムにも同じ事ができるそうだ。ドラゴンの(なめ)し革か。売りに出すのはヤバそうな気がするが……いや、活動資金の捻出(ねんしゅつ)も急務だ。魔石やその他の素材と一緒に、どこかの町で売っ払うしかないか。あぁ、面倒だ。人目につくのは嫌なんだが、何かもっともらしい話をでっち上げよう。はぁ、何かどっと疲れた。さっさとドラゴン食って精をつけよう。


 (いた)みやすい内臓から先に食べる事にする。鑑定してみたが、別に毒性はないようだ。何しろ図体がでかいからな、内臓だけでも食い切れるかどうか。

 ハイファには血液を回してやるが、さすがにハイファだけでは吸いきれない。少しは精霊樹の爺さまにも持って行くか――吸血植物に化けたりはしないよな?

 俺はといえば、さすがに生はきついので、塩と胡椒で味付けしたステーキをいただく。なぜかキーンが期待するような目でこっちを見ている。いや、お前ステーキを食べる気かよ? 他の連中も興味ありげなので、結局は皆にステーキを振る舞う。地球世界の塩と胡椒で味付けしているから、少しはランクアップに貢献するだろう。



 ドラゴンのステーキは非常に美味だった。

この一件は、後々まで各方面に影響する事になります。明日はその話に入ります。

【修正報告】クロウの独白中に異世界を地球と同一視する表現がありましたので修正しました。(2017.07.17)

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