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第百四十五章 王都イラストリア 5.国王執務室~Ⅹの沈黙~

 問い詰めるような国王と宰相の視線に遭って、ウォーレン卿はひとつ咳払いをして口を開く……恨みがましそうな一瞥(いちべつ)を将軍に送って。



「いえ……自分のはただの取り越し苦労です。この場をお借りして話すような事では……」

「ウォーレン卿?」



 猫撫で声で、しかし断固とした意志を内に覗かせて、宰相が励ます(おどす)ように声をかけた。それを聞いたウォーレン卿は、観念したように口を開く。



「……はい。実は、Ⅹの動きがこのところ静かなのが気になっています」



 ウォーレン卿はそう言いながら、ローバー将軍にも見せたメモを取り出す。



「……成る程……そう言われれば……」

「昨年の夏以来、積極的な動きがありませんな……」

「まぁ……『災厄の岩窟』がそれだけ大きな動きであったとも言えますが……」



 とは言うものの、水面下の動きが不安だと言われると、国王たちも警戒せざるを得ない。何しろ相手はあのⅩである。あわや大陸を股にかけた戦乱の火種を()きかけた相手なのだ。密かに何を画策しているのか、知れたものではない。



「ウォーレン卿、Ⅹが何を企んでいるのか判らぬか?」

「さすがにそれは……ですが、これまでの経緯(いきさつ)を考えると、狙いは……」

「テオドラムか……」

「もしくはヤルタ教が考えられます」

「あぁ……そっちもあったか……」



 Ⅹの狙いがテオドラムなら、騒ぎが起こるにせよ他国の話だ。しかし、Ⅹがヤルタ教を狙っているのなら、イラストリアの国内が騒ぎの舞台となる可能性は低くない。



「はてさて、どちらが本命かな」

他人(ひと)事みたいな口ぶりで言わんで下さいよ、兄上。ウォーレン、どう考えている?」

「表立っての活動を止めている事を考えると、それまでの活動の場とは違う場所に狙いを付けている可能性が捨て切れません」

「……ヤルタ教が本命だってぇのか?」

「いえ、『災厄の岩窟』以外の場所が考えられるというだけです。テオドラム国内である可能性も依然として残っています。それに……」

「それに?」

「もう一つの可能性として、亜人……彼ら自身の言葉を借りればノンヒュームたちへの肩入れ、という可能性もあります」



 ウォーレン卿の見解を聞いて、溜息を隠せない一同。



「つまり、Ⅹがどこを狙ってくるかは判らぬ、という事じゃな?」

「はい。ですから、どのような場合にも可能な限り速やかに対応できる態勢を整えておく事が肝要かと……魔術兵も含めてですか」



 終わったと思っていた話を巧妙に蒸し返されて渋い顔付きの面々たちであったが、ウォーレン卿は構わず話を続ける。



「その際に我々がとるべき行動が軍事的なものとは限りません。医療、土木、建築、運送……様々な事態に即応できるチームを、たとえ少人数であっても、準備しておくのが望ましいでしょう。それに加えて、臨時予算の編成についても、予め考慮しておくべきかと愚考いたします」

「ふむ……緊急時の即応部隊か……」



 アメリカ合衆国の連邦緊急事態管理局(FEMA)に具現されるような、危機管理の考え方に近いものがある。この世界にあっては先進的な、いや革命的な発想であった。



「大規模なものは難しいが……本格的な対応の前の場繋ぎ程度であれば……」

「そんなもんでも、有ると無いとじゃ結構違うんじゃねぇですかぃ?」

「そうじゃな……初動が円滑に進むかどうかが、対応の成否を左右しかねん」

「とりあえず、必要と思われるものの準備だけでもやっておきますか」

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