第百四十二章 「災厄の岩窟」 4.死霊術
発掘された化石を、クロウの死霊術によって、アンデッドモンスターとして復活させる事はできないか。
キーンを始めとする従魔たちの発想は、時としてクロウの予想外……と言うか、斜め上を飛ぶ事がままあった。今回のキーンの発言もその一つである。
『……さすがにその発想は無かったな……』
『……キーン殿の慧眼には敬服させられます……』
腕を組んで唸りながら考え込むクロウ。ケルは早々に考える事を放棄したようだ。もはや一介のダンジョンコアの手に負える案件ではない。
『……確かに……オドラントで掘り出したトレントの残骸は復活できたが……』
正確にはトレントそのものではなく、サトウキビと合成したのだが。それはともかく……
『あれは精々百年程度だからな……』
地球と同じ更新世の化石だとすると、少なくとも一万五千年前。下手をすると六十万年前に遡る。そんなもん、アンデッド化できるのか?
『全身骨格が揃っていた訳でもないしな……』
クロウの経験から言えば、少なくとも脊椎動物の場合は、全身の骨格が揃っていないと動きに支障が出る。原料の骨が充分にあれば、人骨などでは――クロウが骨格についての知識を持っている事が影響しているのか――不足分を勝手に補填するようだが……象の骨ではどうなのか自信が無い。
試してみようにも、既に化石は手元に無い。
はてさてどうすると思案投げ首のクロウであったが、ここで別の視点からのコメントが投入される。コメントの主はウィンである。
『でもキーン、あの「象」っていうの、ダンジョン内に出すには大き過ぎない?』
『あ……そう言えば……』
これまた慧眼である。
『ご主人様、もう少々小さめの化石などはございませんか?』
『いや……そう言われても……』
湖成層だから、探せば流されてきた化石は見つかるかもしれない。しかし、そういう化石の場合、全身骨格が揃っている事は期待できない。
『ますたぁ、それならぁ、木の化石とトレントをぉ、合成したらぁ?』
キーンに負けず劣らずの提案が、ライの口から飛び出す。
確かに植物なら、全身が揃っていなくてもどうにか復活させる事はできるようだ。この辺りはイメージの問題もあるのだろうが、クロウとしてはそこまで調べるつもりは無い。
それはともかく、化石の復活ができるかどうかの検証だけなら、確かに植物化石でも問題は無い訳だ。
『……だが、それにしても、葉っぱ一枚程度じゃ多分難しい……というか、葉っぱの化石というのは、泥に刻印された跡だけが残っている事も多いからな』
それに、現在の植物とあまり変わらないものであった場合、化石の遺伝情報をどれだけサルベージできたのか、解りにくいだろう。
かといって、巨大なシダ植物などは古生代石炭紀のものであり、湖成層とは年代が違い過ぎる。
そう言えば、トレントの種子の方はそのままになっているな、と余計な事を思い出すクロウ。だが、その問題は後に回す事にする。
『……とりあえず、手頃な化石を探し出す必要がある。……テオドラムの連中に掘らせて、横取りするか?』
『名案でございますな』
『もう一つ……化石が……スケルトンモンスターとして……復活する……可能性を……テオドラムに……知らしめたら……どうなるでしょうか……?』
『……素敵な提案じゃないか、ハイファ』




