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第百四十一章 難破船 6.アンシーン(その2)

『改めてご挨拶させて戴きます、提督(アドミラル)

『アンシーン、早速だが、お前の能力について確認しておきたい』



 自分が帆船に詳しくない事を自覚しているクロウは、下手の考え休むに似たりとばかりに、解らない点は全て当人(アンシーン)に聞く事にした。ある意味で潔い態度であると言えよう。



『はい。私には僚友クリスマスシティーほどの戦闘力はありません。ですが、沈没前のこの船の記憶をサルベージできましたから、この世界の貿易や海事についての情報の面でお役に立てると思います』



 予想外の、そしてクロウにとってはありがたい話であった。



『それと、直接的な交戦ではなく、隠蔽や擬装などのステルス能力の方が高いようです』



 多分だが、再生の時にクロウが幽霊船をイメージしたのと、「見えざる者(アンシーン)」と名付けた事が影響しているのだろう。これまたクロウにとってはありがたい話である。クリスマスシティーが「モンスターダンジョン」となっているのに対して、アンシーンが「ゴーストダンジョン」となっているのも、その現れだろう。



『成る程……それらの情報については後ほど仔細を聞くとして、最初にお前の積荷の状態について知っておきたい』



 クロウの質問に対してアンシーンは、積荷の多くは腐蝕しているが、陶器の(かめ)に入った酒は飲用可能な状態にある事、宝石や貴金属を詰めた箱が幾つか残っている事などを回答した。それだけで当初の目的は果たしたようなものだが……



『望外の収穫だな。……それなら少しばかり欲を掻くか。アンシーン、この付近に俺が回収できそうな荷を積んだ船が他にあるかどうか、解るか?』

『解ります。早速回収に向かいましょう』



 なんと、アンシーンは他にも回収できるお宝があると答えたばかりか、現場まで案内すると言う。願ってもない話である。

 出来の良い新米ダンジョンに案内されて――おかしく聞こえるのは承知だが、他に言い方が無い――クロウたちはさくさくと付近の沈没船からお宝を回収していく。


 効率良く回収を終えて上機嫌のクロウであったが、いざ帰りなむとなったところで、クリスマスシティーとアンシーンの速度の違いに気付く。いずれも魔力で動いているとはいえ、元がクリーブランド級軽巡洋艦のクリスマスシティーとティー・クリッパーのアンシーンでは、速度に大きな違いがある……と言うか、基本的に帆船であるアンシーンの速度は風任せである。はてどうしたものか、としばし考えたクロウであったが、異空間に収容すれば良いのだと気が付いた。

 どうせこの後で色々と付け足したり改修したりする必要があるのだ。クロウ配下のダンジョンとして使い倒す事が決定している以上、能力アップは必須である。



『その件ですが提督(アドミラル)、一度アンシーンを地球へ連れて行った方が良くはないかと愚考いたします』



 クリスマスシティーの意外な提案に、クロウは片眉を上げて話の続きを促す。



『ダンジョン化したといっても、元が木造船のアンシーンは、防御の点で懸念が残ります。アンシーンにとっての異世界である地球への旅を経験させ、向こうで改修や訓練を行なう事で、魔力のアップが期待できるのではないかと』



 クロウや彼の眷属たちが異界渡りと異界の食物摂取によって強化される事は確認されているが、クリスマスシティーの提案はそれをダンジョン自体にまで当てはめようというものであった。このあたりは、クリスマスシティーが実際に異界渡りを経験したからこその提案であろう。


 名案とばかりにクロウはその提案を容れて、アンシーンを地球世界に運び込み、そこで改修と強化を行なう事にした。



 後日、とある海域で某国の某偵察局が、再び謎の幽霊船を観測して困惑する事になるのだが、それはクロウの(あずか)り知らぬ話であった。

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