第百四十一章 難破船 3.難破船(その1)
さて、呑兵衛たちの嘆願から二日後に酒瓶探しの旅に出航したクロウたちであったが……
期待に溢れる従魔たちを乗せたクロウの御座船クリスマスシティーは、前回と同じく一泊二日の行程で、問題の海域に到着していた。
『……そして、前回と同じような経緯に至る訳だな……』
『申し訳ありません、提督』
『別にお前の不手際じゃない。脳筋のモンスターどもが、予想以上に多いだけだ』
ウンザリしたような呆れたような口調でクロウが話しているのは、たった今クリスマスシティー内に収容された海竜の屍体の事である。そう、いつの間にかリポップして――ゲームでもあるまいし、この単語が不適当なのは解るが、これ以上適切な表現が思い浮かばない――いた海竜が、前回同様にクリスマスシティーに突っ掛かってきて、前回同様に始末されたのである。
尤も、前回使用して周辺への被害の大きかったフォノブラスターに代わり、今回は五十六口径四十ミリ機関砲を――水中で発砲可能かどうかの検証も兼ねて――使用したのだが。
『……まぁ、お蔭で機関砲が水中でも使用可能と判ったんだ。貴重なデータが取れたと思えば良い』
『残念ながら、標的はズタズタになりましたが』
『あれもこれもと欲張る訳にはいかんという事だろう。フォノブラスターだと確かに表皮に傷は付かんが、周辺被害が甚大過ぎたからな』
――しかし、とクロウは思う。
『前回に続いて今回もこちらを襲ってきたが、そういう習性なのか?』
だとしたら、この海域で難破が頻発するのは、予想以上に海竜の寄与が大きいのではないか?
『可能性としては小さくないかと。現在までの測定値を見る限り、取り立てて波が強いとも思えませんし』
『まぁ、この世界の船は木造の帆船のようだからな。船体の剛性も推進力も、お前とは比べ物にならん。同列に論じる訳にはいかんぞ?』
『そうでした……その点を失念しておりました』
残骸さえ見れば沈没の原因は判るのだ。ここで空論を闘わせても意味が無いと、二人は討議を打ち切る事にする。
『それで……クリスマスシティー、この辺りに沈没船らしき反応はあるか?』
クリスマスシティーに搭載のソナーを使用すれば、海底の地形はかなり精確に把握できる。クロウはその計測結果から、海底の沈没船を探し出すつもりでいた。
『それらしき反応は幾つかありますが……見たところかなり古そうです』
『……酒の方は期待できんという訳か』
『恐らくですが』
それでも他の積荷や貴重品などは期待できないかと思っていたが、クロウが予想した以上に破損の程度が酷かった。
『船倉から何からバラバラだな。これでは積荷は期待できそうにない』
『マスター、食べ物とか、無さそうですか?』
『キーン……お前の希望を打ち消すようで悪いが、アレではな』
モニターに映った残骸を見て、キーンたちも納得したようだ。
『と言うか……能く船だって判りましたね、主様』
『確かに、正直申し上げて、言われるまでは船とは解りませんでしたな』
『そこはクリスマスシティーを褒めるべきだな』
『いえ、ソナーの反応から割り出しただけですから』
という感じで、幾つかの残骸をスルーした後で、ようやくモノになりそうな沈没船を発見した。
『今度は期待が持てそうだな』
『比較的……船としての形態を……留めて……います』
『ますたぁ、あそこぉ。何かぁ、見ぇますよぉ』
『どこっ!?』
ライの指摘に猛然とキーンが食い付いていたが、確かに船倉らしき場所に、積荷っぽい塊が幾つか見える。どうやら満載していた積荷が、そのまま船内に残っているらしい。
『あれを全て回収するとなると、些か手間でございますな』
『その件ですが提督、一つ具申してよろしいでしょうか?』
『何だ? 言ってみろ』
『はい。僭越ながら、あの船をそっくりダンジョン化しては如何かと』
前回の後書きでもお知らせ致しましたが、三月三十日に本作の最終巻となります三巻が発売になります。書き下ろしの番外編は二本ですが、各話の随所に加筆してあります。よろしければお手にとってご覧下さい。なお、表紙は宿屋の看板娘ミンナちゃんとクロウのツーショットとなっております。……正確に言えば従魔たちも参加していますけど。
「小説家になろう」での連載は今後も続けていく所存ですので、いましばらくのお付き合い戴ければ幸いです。




