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第百三十八章 新年祭~楽日~ 1.ホットサンド 

 新年祭も最終日となると客の入りにも衰えが出てくる。そろそろ早仕舞いをする店や閑古鳥が鳴く店も出てくる中に、その一角だけは昨日に代わらぬ、いや、今日で最後とあってか一層の人気を誇っていた。(もっと)も、誇っているという形容は(はた)から見てのもので、当人たちは誇るどころかとっちめられているような思いであったのだが。



「ホットエールとホットサンドのセット一つ!」

「ホットフルーツサンド、できました!」

「チーズホットサンドと塩肉のホットサンド! 二人前ずつ!」



 亜人(ノンヒューム)たちが当地に開店した酒場は、喫茶店とは別の客層で賑わっていた。賑わいの理由がホットワインやホットエール、そしてホットビールといったホットドリンクにあるのは確かであったが、それ以外にも人気を後押ししているメニューがあったのである。

 ホットサンド。

 現代日本であれば取り立てて珍しくもないメニューであり、道具さえあれば一般家庭でも簡単に作れる一品である。ただ、こちらの世界では全く目新しいメニューであったようだ。

 台形にカットした二切れ(食パン二枚分相当)で半銀貨一枚。中の具にはチーズや塩肉――塩抜きして味付けや香り付けを施したもの――に野菜を併せたものの他に、数種類の果物、あるいは酒やシロップで戻したドライフルーツなどが使われている。

 肝心の金型はドワーフ謹製の力作で、重さ・丈夫さ・熱伝導などを考慮して試作を繰り返した成果である。ちなみに、具によって焼く金型を替えて、臭いが移らないようにしている。

 他に類を見ない道具による、他に類を見ないメニュー。これが売れない(わけ)が無い。ちなみに、喫茶店で出さなかったのは、マンパワーの限界に達しそうだったからである。



「店長! パンも具もそろそろ品切れです!」

「大丈夫! さっき買い出しに行かせたから、そろそろ……」

「パンとチーズ、果物を買ってきました!」



 亜人(ノンヒューム)たちは商品の手配をするにあたって、店舗の規模、正確に言えば椅子の数を元に計算していた。客の平均滞留時間に席数を掛けて、営業時間との兼ね合いから、一日の消費量を算出していたのである。

 ただし、商売に慣れていない亜人(ノンヒューム)たちが見落としていた事があった。

 サンドイッチは手に持って運べる、歩きながら食べる事ができるという点である。


 酒場として算段していた筈が、テイクアウト可能なホットサンドを売り出したばかりにファーストフードの店を兼ねる事になってしまい、呑兵衛ばかりか家族連れまでが店を訪れてホットサンドを買っていくのである。

 普通の飲み助たちも酒のアテにホットサンドを注文するため、ホットサンドの消費量だけが想定外の伸びを見せていたのである。


 それだけでは無かった。


 他の店で買ったつまみを持ち込んで飲めるようにと、つまみに適した品揃えの店を周りに配したのが裏目に出て、他所から持ち込んだ料理や飲み物を添えてホットサンドで昼食を摂る家族連れが酒場を侵蝕した。


 酒場だけに本番は夜、昼間は比較的楽になる筈という甘い予想は、根底から覆される事になったのである。



「あぁもぅっっ! 何でこんなに忙しいのよっ!」

「愚痴を言う暇があったら手を動かして! お客さんが待ってるんだから!」


 

 慣れない中にも懸命に働く亜人(ノンヒューム)の店員の姿が、人族の客から好感を持って迎えられたのは、想定外の成果だったと言えよう。

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