第百三十五章 新年祭~二日目~ 4.開店のお知らせ~サウランド~
〝昨年の五月祭に続いて新年祭にも亜人たちが店を出し、相変わらず砂糖やビールを使ったレシピで荒稼ぎをしている〟
その情報は、五月祭からこの方各国が送り込んでいた諜報員によって、それぞれの母国へと報された。
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「昨年の夏祭りでは何も出なかったが……今度は出してきたか……」
部下からの報告にそう呟いたのは、テオドラムが――公然の秘密として――サウランドに開いている「酒場」の店長である。
昨年の五月祭ではビールによって痛手を被ったが、他に大きな酒場が無い事もあって、依然としてサウランドで営業――と諜報活動――を続けている。
「はい。店の数は昨年と同じく二ヵ所ですが、扱う品は大分変更されているようです」
「まぁ……この寒空に冷やしたビールという訳にもいかんだろうからな。それで? 今度は温めたビールでも出してきたか?」
「正解です」
「何ぃ?」
呆れたように眼を剥いた店長を責める事はできない。
ビールならぬエールやワインを温めて供する飲み方は、こちらの世界でも一応知られてはいる。ただし、それは単に温めて出すと言うだけで何の工夫もなされておらず、お世辞にも美味しいといえるような代物ではなかったのである。
「そんな下手物を出したってのか?」
「それが……下手物どころではありませんでした。どうも何かの香料を使っているようで……口に含むと何とも言えぬ良い香りが鼻へ抜けて……できるならうちでも出したいメニューです」
「お前がそこまで言うか……何を使っているのかは判らんのか?」
「残念ながら。どうも複数の香料を配合しているらしい事は判るのですが……」
むぅと唸って考え込んだ店長に、部下の追い討ちがかかる。
「酒場のメニューはそれくらいですが、茶店の方は凄い事になっています」
「まだあるのか!?」
「はい。茶店でも温かい飲み物を出していますが、今回はそれだけでなく、砂糖を使った菓子を色々と繰り出してきました。それに加えて、今年は黒砂糖の販売まで行なっています。しかもこの黒砂糖、全てが同じ大きさの四角に揃えられています。どうやら量り売りを楽にするための工夫のようですが」
部下から茶店のメニューの詳細を聞いて、頭を抱えて呻吟する店長。こんな事を報告して、本国がブチ切れない事を祈るばかりだ。
「今年はリーロットやバンクスにも仲間が潜入しているんでしょう? どうせ、そちらからも同じような報告が届くに決まっています。うちからの報告だけが悪目立ちする心配はありませんよ」
「お前は気楽で良いね」
「事ここに至って気鬱になってもしょうがないです」
深い溜息を吐いた店長は、奥の自室に引き込むと、魔道具でテオドラム本国に一報を入れる。
その一部始終を、クロウの命を受けて潜入していたシルエットピクシーが見届けていた。
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「本国は何と言ってきました?」
「とりあえず静観していろとのお達しだ。去年のリーロットでの失敗もあるからな。上も軽挙妄動は控えたようだ」
「馬鹿二人が馬鹿を晒してボコられたのはともかく……リーロットへ向かった七人と『鷹』連隊の一個小隊は……」
「あぁ、今に至るも行方不明だ」




