第百三十四章 新年祭~初日~ 2.シュレク
この世界の元旦、シュレクの鉱夫村改めダンジョン村の一角に、朝早くにも拘わらず、身を切るような寒さにも拘わらず、村人たちが総出で集まっていた。クロウからのお年玉が届いていたからである……それも、誰一人として予想も妄想もできなかったようなお年玉が。
「村長! その瓶が……全部……」
「あぁ、砂糖だ。それも黒砂糖だけじゃないぞ。こっちの瓶は、みんな、白砂糖だ!」
一斉にどよめく村人たち。
そりゃそうだろう。
テオドラム国内でも黒砂糖は五百グラムが金貨一枚。テオドラムが白砂糖と称している粗製糖は、三百グラムで金貨一枚もするのだ。しがない農民に手が出るような代物ではない。しかも、クロウが造った砂糖は、白砂糖は無論黒砂糖も、その品質はテオドラム糖を遙かに上回る。それが中くらいの瓶にそれぞれ四十二個。丁度村の全戸数と同じである。各戸に白砂糖と黒砂糖を一瓶ずつ分配しろという意味なのは明白。一体金貨何枚分にあたるのか。村人たちにとっては目が眩みそうな贈り物であった。
ちなみに、村人たちに砂糖を贈るについては、クロウは事前に亜人連絡会議に諮っている。自分たち以上に虐げられてきたテオドラム国民がいると聞いて、亜人たちは驚き、憤慨し、快く了承したのであった。
「……それだけじゃない! ダンジョン様は、この砂糖を使った料理の方法まで書いて下さっている!」
再び村人から歓声と溜息が返ってくる。砂糖などという、かつて使った事の無い高級品を貰っても、そのまま舐めるぐらいしか思いつかなかった――それだけでも大喜びだったろうが――主婦連にとってはありがたい救済措置である。
「で、でも、村長。砂糖を使った料理って……一体どんな……?」
恐る恐ると言った様子で問いかける主婦の台詞に、他の村人も考え込む。砂糖というのは、それはそれは甘いものだと聞く。だがしかし、一体全体甘い料理などというものが存在するのか?
「待ってくれ……あぁ、砂糖は料理のタレに使う場合が多いようだ。それ以外では……ほぉ……細切れ肉を砂糖と塩で纏めて焼く方法があるな……あとは菓子のような感じで……うむ……ダンジョン様から戴いた二種類の芋を使った作り方が載っている。他にも色々と……あぁ、豆を甘く煮る料理や……ふむ……果物を砂糖で煮て保存するようなものもあるな……」
砂糖を使って細切れ肉を纏めるハンバーグの作り方は、クロウがネットで検索して見つけ出した。芋については、ジャガイモを使った芋餅と、サツマイモで作る大学芋の作り方を提供した。あとは煮豆やコンポート、ジャムなどのレシピである。ちなみに、油を少なめにしてフライパンで作るフライドポテトのレシピは既に提供済みであり、村人たちの定番料理となっている。
それはさておき、村長がクロウから提供されたレシピを読み上げた時の村人たちの反応は凄まじかった。口々に詳しいレシピを教えてくれるように喚くため、収拾がつかないと判断した村長は英断を下す。
「静まれ! ダンジョン様の御前で見苦しいとは思わんのか!」
「ダンジョン様」の名前の効果は絶大であり、たちどころに村人たちは静かになる。
「一人ずつ対応など、とてもじゃないがやっておれん。よって新年祭の間、夕食は村総出で作って食べる事にする。今夜のメニューは、ダンジョン様から戴いた丸い芋を使った芋餅だ! 自分たちで食べる分の芋を持ち寄って、全員で作るぞ!」
村長の宣言に、わぁっと歓声で答える村人たち。
シュレクのダンジョン村の新年祭、今年は楽しいものになりそうであった。




