挿 話 ヴィンシュタット組の新年 2.餅
予想に反してポチ袋の方に大喜びのハクとシュクの事は一旦措いて、クロウはカイトらヴィンシュタットの大人組に手土産を渡す。
「大人相手にお年玉って訳にゃいかんが、手土産代わりの酒と餅だ。あぁ、餅の食い方は知らんだろうから教えてやるが、食べる時には注意しろよ。俺の国だと、年寄りなんかが餅を喉に詰まらせて死ぬのは毎年の事だからな」
そう注意したところ……
「毎年死人が出るような食べ物なんでございますか!?」
「何でまた、そんなモンを毎年食べるんですか?」
と、使用人勢が一様に引いたのに対して、冒険者勢は揃って興味を示した。
「喉を詰まらせるような食い物って……」
「スライムみたいなもんっすか?」
「いや……何と説明したら良いのか……」
珍しくも酒そっちのけで食い付いたカイトたちに、持参の餅を焼いて振る舞う。
「うわっ!?」
「卵が割れて化け物が孵った!?」
「落ち着け! 餅が割れて膨らんだだけだ!」
餅の特性と焼いた時の反応を説明し、納得させるまで大騒ぎであった。
「こ、これを食べるんでございますか……?」
「嫌なら無理にとは言わんが……」
「い、いえ……大丈夫、戴いてみます」
恐る恐る手を伸ばすヴィンシュタット組一同。そして……
「わぁっ!」
「伸びた!」
「おぉっ、こりゃ凄ぇ」
「わっ、手にくっつくよ! 兄さん」
「ご主人様……これを、一体どうやって……?」
「あぁ、醤油と海苔を持ってきたからちょっと待て。……アンナ、砂糖と小皿を持って来い。それから、ベーコンがあったら少し焼いてきてくれ」
冷めないうちにと、クロウは手早く醤油と砂糖醤油を用意する。
「好みがあるだろうから、各自醤油と砂糖醤油を試してみろ。醤油の方は海苔を巻いてもいけるぞ。あと、今アンナがベーコンを焼いているから、それと一緒に食べても面白いぞ」
クロウの勧めに従って、おっかなびっくり餅を試食した一同であったが……
「うわ……」
「何か……固い訳じゃないのに……噛み切れないとか……」
「だから、無理に丸呑みして、喉に詰まらせるやつが出てくるんだ。一度にたくさん食べようとするなよ?」
「……美味しいのは……美味しいんですけど……こう……歯にくっつくのが……」
「そのうち取れるから気にするな」
「不思議な感じだけど」「美味しいです!」
「こりゃ……思ったより、色んなものに合うんですね」
「まぁな。原料は米で、米ってのは俺の国じゃパンと同じように主食扱いだからな。米から作った餅も、大抵のものに合うぞ」
「焼いて食べるのが普通なんですか?」
「いや? 今回は焼き餅を振る舞ったが、雑煮……茹でたものをスープに入れて食べる事もあるからな。喉に詰まらせ易いのは、寧ろそっちだな」
あと、小豆餡……砂糖で甘く煮た赤豆を絡めて食べる食べ方もあるというと、一同うち揃って驚いたようだった。
「何か……随分と使い勝手の良い食べ物なんでございますね」
「そうだが、まぁ米を蒸したり搗いたりと、作るのに手間がかかるからな。正月……新年祭みたいな晴れの時にしか、普通は食べんな」
「へぇ……特別な食べ物なんでございますね」
餅という珍しい食べ物との邂逅は、ヴィンシュタットの住人たちに驚きと感銘を与えたようであった。




