挿 話 ヴィンシュタット組の新年 1.お年玉
マンションで日本風の正月を――従魔たちと一緒に――迎えていると、雑談の中でライが質問を放ってきた。
『ますたぁ、お年玉ってぇ、何ですかぁ?』
遠回しな催促かと思ったが、違ったようだ。純粋に好奇心からの質問らしい。
……心が汚れているな、俺。
考えてみれば、うちの子たちが現金を貰ったところで、むこうの世界でもこっちの世界でも使いどころが無い。持て余すだけだよな……。
些かの反省を交えて説明していたら、何かが頭の隅に引っ掛かっているような気がして……
『ははぁ、子供への小遣い銭ですか』
『人間たちがそんな事をやってましたね』
『子供……主様、ハクとシュクの二人はどうなんですか?』
――あぁっっ! それだ!
何か気に掛かっていたんだが、そういや、あの二人を引き取ってから一年以上経ってるのに、小遣いの類を一度も与えてない。
(『……いえ……砂糖とか……ジュースとか……知恵の輪とか……』)
(『……それ以前に、私室にベッド、衣服まで与えているのでは……』)
(『直接の主人はカイトさんでしょ? あっちで与えてるんじゃない?』)
(『マリアさんとかぁ、甘やかしてぃそぅだけどぉ』)
後ろの方でうちの子たちが何か呟いてるようだが、これは由々しき不手際だ。いや、今からでも遅くは……
『……ご主人様……あちらでは……まだ……新年になって……いません……』
……四日間の時差があるんだったな……
・・・・・・・・
「……という訳で、ハク、シュク、年祝いだ。……俺の国じゃ年玉っていうんだけどな」
そう言いながら、クロウは目を輝かせているハクとシュクにポチ袋を渡す。中身は――予めカイトたちに適正な額を聞いておいた――それぞれ銀貨二枚である。
クロウとしてはもう少し渡しても良いんじゃないかと思うが、カイトたちに言わせると、抑奴隷に小遣いを与える事は無い上に、子供の小遣いとしても銀貨二枚というのは破格らしい。二人の場合は、表向き貴族の従者という事になっているため、体面を考えての例外なのだという。
既に同額をカイトから渡しているため、合わせるとそれぞれ銀貨四枚。この世界では平均的な市民の四日分の生活費に当たる……
――そう力説されてみると、銀貨二枚で充分な気がする。
そして、過分な小遣いを貰った当の二人はというと……
(「……何か、銀貨よりもポチ袋の方を喜んでるみたいだが……」)
(「あの……ご主人様、彩色された紙の袋なんて、普通は手に入らないと思います」)
(「何? そうなのか?」)
(「まぁ……見た事ぁありやせんね」)
(「それに、あれって随分白くて丈夫な紙みたいですよね」)
(「普通の貴族でも、ああいうのはあまり使わないと思います。まして、子供に与えるなんて事は……」)
現代日本とこちらの世界。彼我の認識の隔たりは斯くも大きいのであった。




