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第百三十三章 エルギン 3.新年祭前夜(その3)

 翌日、連絡会議事務局の会議室には、昨夜に増して多くのノンヒュームたちの姿が見られた。



「関係各方面とも調整したんだが、エルギン(ここ)へ回せる量はそう多くない。人手の事なども考えると、酒場や茶店を開くのは無理という結論になった」



 世話役を代表してホルンが告げるが、その事に対する文句は出ない。砂糖を(おご)ったハーブティやビールを飲みたいのは山々だが、それはあくまで客としてであって、店の側に立ちたいとは思わない。絶対に。



「従ってエルギン(ここ)でできるのは、砂糖を使った菓子の販売に限られる。それに、融通できる分量を考えると、新年祭を通して販売するのは無理だ」



 ここで質問を発したのは、昨日も熱弁を振るったエルフの男、ネルヴァンという名前の魔術師である。



「こちらに回してもらえるのは何になる?」

「済まんが、まだ確定はしていない。エルギン(ここ)は当初の予定に無かったからな。ただ、販売の手間を省くために、一つ一つがある程度の大きさで、量り売りの必要が無い品を考えている」

「解った。もとより無理を言ったのはこっちだからな」



 エルギンの町に何を渡すのかは、連絡会議の中でも一頻(ひとしき)()めた。他の町と同じものにしておけば作る手間は省けるが、接客の訓練を受けていない素人(しろうと)に、手早く正確に計量計数して販売――などという技能は期待できない。処理に時間がかかって客を苛つかせては(まず)いし、数え間違いなどあった日には面倒だ。


 簡単に作れて売れるもの、という観点で候補に挙げられたのが綿菓子である。これなら客の掴みはバッチリだろうし、何より材料と道具を渡しさえすれば、製作サイドは何もする必要が無い。作るのは現場の売り子に任せれば良いのだから。

 ……という理由を述べ立てて、綿菓子を強く推したのはダイムである。本人が作ってみたかったのではないか、などと疑ってはいけない。何より、ダイムの主張は充分に筋の通ったものだったのだから。

 綿菓子の次に候補に挙げられたのはグラノーラ、正確に言えばそれを固めたグラノーラ・バーである。携帯食料として有用な点を考慮したセレクトであり、亜人(ノンヒューム)の冒険者が多いエルギンの町の性格にもマッチしていると考えられた。



「ガキども向けの菓子は無しか?」

「ちぃと可哀想だな」

「だったら、子供限定で販売したらどうなんだ?」

「けどよ、亜人(おれたち)が売ってる店に、人族のちびっ子連中が近寄るか?」

「大丈夫だろう。ガキどもは結構遠慮が無いぜ?」

「いや、それはこの町のガキどもだろう。他の町から来た連中には、少し近寄りがたいんじゃないか?」

「そりゃあ無ぇだろう。そんな遠慮があったら、五月祭であんな騒ぎにはならなかったろうよ」

「あぁ……それもそうか」



 などという議論から、誰が売るのか、どこで売るのか、どういう風に売るのか、といった点が話題に上る。



「……なぁ、いっその事、ミルド神教の礼拝所で売ってもらったらどうなんだ?」



 ()()ずとヘイグが切り出した時――提案者が提案者だけに――居並ぶ全員がしばらく呆気にとられていたが、やがて真剣な様子で検討し始める。



「……悪い提案じゃないかもしれんな」

「端っこの方に店を出した場合、場合によっては客の流れをぶった切る事になりかねん。その点、礼拝所なら……」

「あぁ、参拝客の流れの終着点だからな。流れを断ち切る事にはならん筈だ」

「だが、ある意味で一等地だぞ? 他の屋台の連中から文句が出やせんか?」

「それならいっそ、さっきの話に出たように、子供相手にだけ売るようにしたらどうだ? どうせ採算度外視なら、二、三個を一包みにして安値で売れば、他の屋台からの苦情も抑えられるんじゃないか?」

「そうすると……売るのは子供相手の菓子だけか?」

「いや。別に店を一ヵ所に絞る必要もあるまい。小さな売り場何ヵ所かに分けたらどうだ?」



 ()くの如くにエルギンでの出店計画は、泥縄ながらも少しずつ練り上げられていった。

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