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第百三十三章 エルギン 2.新年祭前夜(その2)

 獣人の男の発言を面白そうに聞いていた世話役三人組であったが、代表するかのようにホルンが口を開く。



「さすが『(ふさ)()』クンツだな。精霊使い様も同じお考えだった」



 稀代の策士と目されているクロウと同じ考えだと聞いて、おぉっというどよめきが上がる。主に獣人サイドから。



「他の町と同じ規模で大々的に、というのは難しいだろうが、我々に裁量できる範囲でなら、一部の砂糖をこちらに回すのは問題あるまい」



 ホルンの決断を、他の二人の世話役も(うなず)いて支持している。



「回してもらえるのは砂糖だけなのかよ? ビールはどうなんだ?」



 「能天(のうてん)」ヘイグの質問には、同じ獣人のダイムが答える。



「回すも何も、ドランの村で仕込んだ分は使っちまったし、予備にと取っておいた分も、新年祭で使うのに足りるかどうかなんだ。悪いが、これに関してはテオドラムのビール販売網を潰すのを優先させてもらう。こっちへ回す余裕は無ぇ」



 ダイムの口からきっぱりと告げられたヘイグであったが、しかし諦め悪く食い下がる。



「来年の夏には回してもらえるのか?」

「ドランの連中も、次の仕込みではビールを増産するって言ってたからなぁ……本格的な販売を始めるつもりらしいが……まぁ、俺たちの口からは何とも言えん。それより新年祭の話に戻るぞ」



 ダイムの宣言を聞いて、ヘイグも大人しく口を(つぐ)む。他の面々もそれに(なら)い、新年祭での砂糖の販売に思いを寄せる。


 「(ふさ)()」クンツがさらりと爆弾を放り込んだのはその時だった。



「人族への販売量はどれくらいを考えているんだ?」



 クンツの質問の意味が理解できず、ポカンとしているノンヒュームたち。一方で世話役の三人は、あぁ気が付いたかという表情である。



「人への販売って……俺たち(ノンヒューム)への割り当ての話だろう?」

「他の町で砂糖の販売を行なっておいて、ここでは俺たち(ノンヒューム)の独占とするつもりか? 人族の反感を買うばかりか、ここエルギンのノンヒュームの評判は地に堕ちるぞ? (そもそも)、表向きには流通網の整備と見せねばならん事を忘れたのか?」



 クンツの指摘に、そういえばそうだったという表情のノンヒュームたち。



「人族に販売……って事ぁ、俺たちの取り分が減るのかよ!?」

「馬鹿っ! 問題はそんな事じゃない。五月祭での騒ぎの事を聞かなかったのか!?」



 五月祭での狂奔がこの町で再現されると聞いて、一気に青ざめるノンヒュームたち。



「う、売り子の手配はっ!?」

「残念だが、事務局としてもそこまで手は回しかねる。第一、もう時間が無い」



 恐れと絶望が場を支配しそうになった時、少し呆れたような口調でダイムが口を挟む。



「落ち着け。何も酒場や茶店を出そうってんじゃねぇんだろうが。砂糖なり菓子なりをちょいと販売するだけだ。それくれぇなら何とかなるだろうが。俺たちの分は会館内で売る事にすりゃ、買いそびれる心配も無ぇ」

「とはいえ、砂糖をふんだんに使った菓子など前例が無いからな。どれだけの客が来るのか予測がつかん」



 ダイムの言葉で救われたという表情が、トウバの台詞(せりふ)で一転して沈む、その様子を見てホルンが告げる。



「まぁ、他の町へ回す量の事もある。この町への割当量は多くはなるまい。(ろく)に準備もしてないんだ。どのみちそれ程多くの客は(さば)けんだろう」

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