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第百三十三章 エルギン 1.新年祭前夜(その1)

 時間を少し遡って昨年の暮れ、エルギンにあるノンヒューム連絡会議事務局では、代表の三人にエルギン在住の亜人(ノンヒューム)たちを交えて、熱の籠もった議論が密かに繰り広げられていた。



「……確かに、砂糖もビールも、テオドラムに対する戦略物資として重要だ。その事に異を唱えるつもりは無い」



 熱弁を振るっているのは、ここエルギン在住のエルフの男性である。どうやらこの席では、砂糖とビールに関する問題が議題となっているらしい。エルフの男は言葉を続ける。



「しかし、現状はもうそれだけに収まらなくなっているんだ。対テオドラム戦略の一環だとはいえ、南部の者ばかりが砂糖とビールの恩恵に(あずか)るのは不公平だという意見が多い。それには、ここにいる者全てが同意してくれると思う」



 彼の言葉は間違いではない。自分たちも砂糖やビールのお(こぼ)れに(あずか)りたいというのも無論あるだろうが、連絡会議事務局のあるエルギンの者だというだけで他の町の同胞から不平不満をぶつけられるのには、皆がうんざりしているのであった。なので、多くのエルフや獣人が彼の言葉に(うなず)いている。



「それは解るが……だからと言って、テオドラムの連中に鉄槌を喰らわすのが遅れるようでは本末転倒じゃないか?」



 別のエルフが異論を唱え、これにも多くのノンヒュームたちが賛同する。



「なぁ、精霊術師様はどうお考えなんだ?」



 ここで事務局の世話役――を()(くず)しに押し付けられた形の三人――に向かって、「能天(のうてん)」ヘイグと(あだ)()されている獣人の男が問いかけた。確かに、ビールにせよ砂糖にせよ、スポンサーとも言えるクロウの意向を無視しては話が進むまい。ヘイグの質問は的を射たものと言えた。



「精霊使い様が(おっしゃ)るには、砂糖の割り当てを増やす事はできないが、その中でどこにどう配分しようと、それは我々の裁量の範囲だと言う事だ」

「ちなみにドランの村も同じ意見で、ビールの割り当てを増やすのは難しいが、その分をどう配分するかについては、我々の意見に従うと言ってきた」



 ヘイグの質問に最初に答えたのはトゥバ、後を続けたのはダイムであった。そして二人の言葉に続けるようにホルンが発言する。



「砂糖の使い方としては、テオドラムが砂糖を販売している先に流して、テオドラムの影響力を削ぐのが戦術的には有効。これは精霊使い様も(おっしゃ)っておいでだ。ただ、精霊使い様はその先を考えておいでだった」



 ホルンの言葉にざわつくノンヒュームたち。



「……その先?」

「どういう事だ? ホルン」

「前にも言ったが、精霊使い様はいずれ精糖産業を我々に任せる事をお考えだ。その事を考えると、各国における我々(ノンヒューム)の発言力を高めておくのも重要だろうと(おっしゃ)っていた。エルギン(ここ)での販売は、砂糖・ビールと我々ノンヒュームの繋がりをアピールするのに使えるだろうと」



 ホルンの言葉に(うな)って考え込む一同……と言っても、考え込んでいるのは主にエルフである。獣人たちの多くはこういう難しい話は苦手らしく、目をパチクリとさせている。

 そんな中にあって、一人むっつりと黙っていた獣人の男が発言する。



「どのみち現在の生産量では、テオドラムの砂糖に取って代わるのは無理だろう。ならば、テオドラムの国力を削ぐためには、やつらの交渉カードとしての砂糖の価値を下げる事を考えた方が効率的だ。それを考えると、砂糖やビールの販売拠点を広げるというのは、あながち間違いとも言えんだろう。我々が販売網の確立に乗り出しているという噂だけでも、テオドラムの牙城を脅かす事はできるだろうからな」

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