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第百三十二章 バンクス 1.「樫の木亭」

 シャルドのキャンプ場に建てたテントの中で――実際にはそこを経由してマンションのベッドで――無事に一夜を明かしたクロウは、寝袋とテントを片付けると朝食を摂った。よくよく見れば、広場の周囲には幾つもの雪像が並んでいる。負けん気を起こしたクロウは、バンクスからの馬車が来るまでに幾つかの雪像を追加する挙に出た。バンクスへの馬車が出た後で、無駄に精巧な雪像を見た観光客たちが騒ぎ出すのだが、それはクロウの知った事ではない。



・・・・・・・・



「お早うございます」

「お早う……って、クロウさんか!」

「憶えて戴けましたか」

「そりゃあな、バンクスからここまで、雪の中を徹夜で歩いたなんて武勇伝は、後にも先にも聞かねぇからな」



 バンクスの町の商人宿、「樫の木亭」の主人ジェハンはそう言って呵々(かか)と笑ったが、クロウは溜息を()くしかない。悪評というのは消えないものだ。



「なに、別段悪評って(わけ)じゃねぇさ。未だに語り草になってるだけで。ルーパートの旦那なんか、事あるごとに蒸し返してるからな」

 ほほぅ……?


「ルパの馬鹿は後で締めるとして、部屋は空いてますか?」

「あぁ。いつもの部屋をとってあるぜ」

「助かります。シャルドでは部屋が取れなかったんで」



 クロウがそう言うと、ジェハンは納得しながらも気の毒そうな目を向けた。



「あぁ……俺も一度だけ見に行ったんだけどな。……大した人出だったわ」

「貸テントも品切れらしく、焚き火の周りで夜明かしをしている者も大勢いましたからね……」

「クロウさんはどうしたんだい?」

「去年で懲りましたから。しっかりテントを持参しましたよ。今年は雪が酷くなる前にと思って早めに出たんですが……雪の如何(いかん)(かか)わらず、テントが必要になるとは思いませんでした……」

「ま、備えあれば憂いなし、って事だぁな」



 クロウとジェハンが他愛ない会話を続けているところへ、二階から降りてきたのは看板娘のミンナである。



「クロウさん、お部屋のしたく、できてるから」

「お、ありがとう」



 どうやらクロウの姿を見かけて、すぐに部屋の支度にかかってくれたらしい。良くできた看板娘である。去年より少しだけ大人っぽくなった気もする。



「そんなミンナちゃんにお土産だ」



 そう言ってクロウが取りだしたのは、エッジ村特産の草木染め……ミンナの体格に合わせてやや小さめのスカーフであった。夏祭りで準備したうちの一つを確保しておいたのである。


 たかがスカーフ――注.クロウ視点――とはいえ、淡い色の地に映える鮮やかな花模様に、少女ミンナの目が輝く。



「ありがとう! クロウさん!」

「クロウさん……ありがてぇけど、こりゃ、高いんじゃ?」

「いえ。品薄かもしれないけど、高いものじゃないから気にしないで。毎年部屋を取ってもらってるんだから、そのお礼ですよ」

「そうかい? ……んじゃ、ありがたく貰っとくわ。ミンナ、クロウさんにもう一度お礼を言いな」

「うん! ありがとう!」



 元気良く礼は言ったものの、ミンナ嬢の視線はスカーフに釘付けである。胸に当てたり首に巻いたりと、あれこれ忙しいようだ。



 微苦笑しながらその様子を眺めていたところに(ちん)(にゅう)(しゃ)が現れた。

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