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第百三十一章 バンクスへ 3.亜人連絡会議事務局(その2)

少し長めです。

「新年祭の方はそれで良いとして……砂糖菓子店の方はどうなっている?」



 クロウは話題を切り替えて、イラストリアとマナステラに出店予定の砂糖菓子店について質問した。



「どちらも店舗の確保は済ませたそうです」



 ちなみにイラストリアの菓子店は、王都の東に位置するシアカスターの町に出店する事になった。多数の貴族が(ひし)めく王都では、貴族に繋ぎ一つ付けるにも、(しがらみ)が錯綜して大変だからである。



「どちらも? ……セルマインはマナステラに店を構えているんじゃなかったのか?」

「マナステラの首都であるマナダミアに商会を構えてはいますが、扱う内容も客層も違いますから。新たに一軒用意する事にしたようです。ただ……セルマインが言うには、どのような店構えにしたら良いのかが判らないそうでして……」



 少なくとも、イラストリアやマナステラの歴史が始まって以来、初の砂糖菓子店である。勝手が判らないのも無理はない。



「うん? 似たような店は無いのか? イラストリアに無くても他国には?」

「砂糖菓子専門の店舗というのは無いそうです。砂糖菓子を扱う商人はいても、取引先の貴族などに持参するのが普通のようでして」



 セルマインの場合はその伝手(つて)が乏しいために、こういう風に耳目を集める手段に訴えた(わけ)である。



「ふむ……セルマインには菓子類の売れ筋について調べてもらったが……(そもそも)、砂糖菓子自体があまり出回っていないようだったしな」

「お抱えの料理人が蜜煮や菓子パンなどを作る程度でしたね。頻繁に食べてはいるようですが」

「店のデザインについては助言できるが……内装や外装を早めに手がけると、間違い無く人目を引く事になるぞ?」

「ですが、手がけるのはずっと先にしても、どういう店にするのかのコンセプトは早めに知っておきたいようです」



 成る程、と納得するクロウ。店と商品のコンセプトが不明では、根回しにも宣伝にも動けないだろう。



「解った。そっちの方については少し考えてみる。制服については説明したんだな?」

「はい。大変驚いていましたが」



 店員が揃いの、しかも目立つお仕着せを着て接客するという営業方針は、この世界では随分と斬新なものであったらしい。()(ざと)い店の幾つかは既に制服を導入したらしいが、まだまだ少数派に留まっていた。



「それで……最大の問題になっているショーケースの方はどうだ?」



 ガチガチに砂糖で固めた砂糖菓子や糖度を高めたジャムであれば、湿度や温度に気を付ければ、比較的長期間の保存が可能である。しかし、この二つだけではいずれ行き詰まると考えたクロウは、もう少し保存期間の短い菓子類をラインナップに組み込むべく、品質保存機能――あるいは変質防止機能――のついたショーケースの開発を指示していたのである。

 最悪の場合は自分のダンジョンマジックを使って小型のダンジョンとして創り上げるつもりであったが、地球世界にある冷蔵庫程度のものは何とかなるのではないかと考えていた。しかし、冷蔵庫といえども半永久的な保存が可能な(わけ)ではないため、保存の魔法があるのならそっちの方が良いに決まっている。



「ショーケース型の冷蔵箱(アイスボックス)はどうやら使えそうです。場合によってはですが、酒造ギルドに提案してみても良いかと」

「ふむ……生鮮食品などを中心に広まりそうだな。……解った。そっちは連絡会議の判断に一任する。それでは、間欠術式の方はどうなっている?」



 この世界における氷結の魔術は対象を冷却するだけであり、冷やされた状態を維持するのには向かない。ならば別個の魔道具で温度を計測し、温まったら冷却の術式が発動するようにシステムを組めば良いのではないか。サーミスタに相当する手頃な素材が見当たらず、新たに魔道具として設計する必要はあったが、クロウはこれこそが本命だと考えていた。



「これなら既存の技術の改良という範囲に収まりそうだからな。表に出す事を考えたら、間違い無くこいつが本命になる」

「承知していますが……やはり、温度を精確に計測して発動する術式の構築が難航しています。氷結の魔術を弱体化して冷却の範囲に抑える事は、どうにかできたそうですが」

「ふむ……大変だろうが、頑張ってくれ。これが上手くいけば、新年祭用に保温のショーケースを作るのにも使える」

「あ……成る程。そういう使い方もできますか」

「そういう事だ。それと……『保存ケース』の方はどうなっている?」



 物品の保存スキルとしてラノベでは定番扱いのアイテムボックスや収納魔法だが、こちらの世界では、品質の劣化を伴わない収納系の魔法――空間魔法にある――の使い手は極めて少ない。ましてや、その魔法を付与した魔道具など、天文学的な値段が付く。そこでクロウは、単なる思いつきとしてではあるが、複数の魔法を同時に運用する事で類似の効果を持たせる事はできないか検討させていた。



「現在は『保存』の魔法と『結界』の魔法をショーケースに付与するのを試していますが……少しだけ曙光が見えてきました」

「ほう……モノになりそうな気配があるのか?」

「まだ先は長そうですが、開発担当は好感触を得ているようです」



 「保存」の魔法と「結界」の魔法は、いずれもレアな魔法ではあるが、空間魔法ほどに珍しい(わけ)ではない。前者は品質保持の効果を持つが、対象を一つ一つ指定してやる必要があり、特定の領域内のものを保存するような使い方はできない。しかし、これと「結界」の魔法を特定条件下で組み合わせる事によって、空間系の収納魔法より効果は落ちるものの、ラノベのアイテムボックスと同じようなものを創り出す事ができそうだという。



「それにしても……異なる二種類の魔法を付与する事で、品質保持の魔道具が作れるとは……」

「『保存』も『結界』も、対象に付与する性質の魔法だから助かった。そうでなかったら付与魔術師まで動員する羽目になったからな」



 このあたりのアドバイスは、クロウが自身のダンジョンマジックと空間魔法を比較していて気が付いた事によっている。



「しつこいようだが……万一そいつが実用化できたら、これは砂糖どころではない重要機密になる。その点はくれぐれも(わきま)えておけよ?」

「解っています。先程お話しした冷蔵箱(アイスボックス)式のショーケースも、そのための()(くら)ましの役目を考えての事ですから」

「成る程……当面販売予定の砂糖菓子とジャムはそこまで保存に気を遣う必要はないから、ただのショーケースで充分だ。保存用のショーケースはその先を考えての事だから、無闇に急ぐ必要は無いぞ?」

「了解しました」

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