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第百三十一章 バンクスへ 2.亜人連絡会議事務局(その1)

 ダイムがクロウと連れ立って事務局へ入って行くと、()(ざと)く気付いたホルンが声を掛ける。



「精……クロウ……さん。良くいらっしゃいました。エルギンへは何かご用事で?」



 いつものように「精霊使い様」と口走りそうになって、危うくそれを回避する。事務局内にいる亜人(ノンヒューム)のうち、勘の良い者はクロウの正体をおぼろげに察したようだったが、知らぬ振りを通している。



「いや。村の山小屋で冬を越すのも難儀だから、毎年冬はバンクスで過ごしているのは知ってるだろ? 今日はそこへ行く途中なんだ」

「あぁ……そう言えば。今日はこちらにお泊まりですか?」



 そう言う口ぶりと視線から、相談事があるのだろうと察するクロウ。引き籠もりを自称しているくせに、こういうスキルには恵まれている。



「……そうだな。食糧その他を仕入れたりしていれば、どうせ出発は夕方近くになるし、ここで一泊していくか。手頃な宿を紹介してくれるか?」



 表向き一介の人間であるクロウが、事務局の仮眠室を借りる(わけ)にはいかない。クロウの意図を察したホルンが、すぐに知り合いの宿を紹介する。ダイムが急いで宿を取りに出かけている間、クロウたちは別室で会談を持っていた。



「話がありそうな様子だったが……新年祭の件だな?」

「はい。人員の準備は整って、出発を待つばかりになっています。今回は五月祭と同じ三ヵ所に加えて、マナステラでも二ヵ所に店を出す事に」

「都合五ヵ所か……綿菓子機の数は足りそうだな」

「こちらでも連続運転の試験をやってみましたが、半日程度なら問題無く動きましたから、二十五個は過剰なくらいだと思います」

「何、多いなら一ヵ所で二台動かせば良いんだ……需要があればの話だが」

「あまりにも新機軸なので、こればかりは何とも……ですが、エルフや獣人の子供たちは――大人たちもですが――揃って食い付いたそうですから、掴みには充分かと」

「飴と豆菓子の数は揃ったのか?」

「これも売れ行き次第ですが……一応、三日分として二百五十以上は持たせてあります。あとは売れ行きを見て現地で作る予定です」



 結局のところ、新年祭で庶民向けに出す菓子類としては、宣伝用の綿菓子に加えて黒糖飴と豆菓子――煎り豆に糖蜜を絡めたもの――を出す事にした。これに加えて販売用の黒砂糖を持ち込んでいる。

 なお、黒砂糖に関しては、容器に入れて販売するコストアップを嫌って、角砂糖のような立方体(キューブ)に成型して持ち込んでいる。斬新な形式にホルンたちは目を丸くしていたが……。



「制服の方は間に合ったのか?」

「問題ありません。少し余分に発注しておきましたし、汚れや破損があっても対応できます」



 資金に関しては、五月祭の制服用にとクロウが渡した分がまだ余りまくっていた。



「それに加えて、茶店と酒場も出すんだよな?」

「茶店の方は駄菓子屋と同じ敷地……というより、茶店の一角で駄菓子を売る事にしていますし、何も問題はありません。混雑を見越して人員も多目に配置するようにしましたし」

「あぁ……遠目に見ただけだが、五月祭では混雑していたからなぁ……」

「大変だったようです……」



 思わず遠い目をする一同。特にホルンたちは、五月祭終了後に人員不足について、現場スタッフから散々苦情を言われたのだ。担当者は戦場のようだったと(こぼ)していた。それを踏まえて、今度は人員を倍にしている。五月祭のような失態は無い筈だ……そう思いたい……。



「……まぁ、良い。それで、ホットメニューの方は大丈夫か?」

「ホット用のビールが少し(こころ)(もと)無いですが……」

「俺の方も呑兵衛どもに大分飲まれてしまったからなぁ……」



 ホットビール用のビールは既に仕込んだ分ができてはいるが、五月祭の分を考えると、ここで使い切るには少々厳しいものがある。ビールの醸造は四月いっぱいまでが限度なので、新年祭で在庫の全てを使い切ると、五月祭以降の販売分が苦しくなる。ドランの杜氏たちも必死になって増産に励んではいるのだが。

 クロウも自作して備蓄していた分を提供したのだが、五月祭での予備用にと五百リットルも造っていたそれはカイトたちに容赦なく飲まれてしまい、三百リットルを切るまでに減少していた。途中でそれに気付いて追加で仕込みはしたものの、その分はまだできあがっていない。

 といった次第で、開催地が増えた上にドワーフの来襲が予想される事を考えると、(いささ)(こころ)(もと)無いものがある。まして、開催地のうち二ヵ所は、ドワーフ人口の多いマナステラなのだ。



「一般販売を考慮して、ホットビールもホットワインも価格を低く設定したからなぁ……」

「ホット用のワインも多目に仕入れてはあるんですが……」

「普通のエールも用意してあるんだろう? ホットにした場合は、(むし)ろビールよりもエールの方が合うと思うぞ?」

「ホットに合うものを探すのに手間取ったそうですが……一応は」



 この国でのエールは醸造の際にホップを添加していないため日保(ひも)ちが悪い。冬場は気温が低過ぎて醸造に不適当な事もあり、()(じょう)におけるエールの旬は既に過ぎている。今回手配したのは、ドランの(とう)()たちがホップを添加して試作していたものである。ただしこれも試作品というだけあって充分な量は確保できていない――というか、当初は市販の予定は無かったらしい。それもあって、場合によっては五日間()たずに品切れ、店仕舞いという可能性もあるそうだ。



「ドワーフの連中が手加減してくれる事を祈ろう……」

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