第十五章 エルギン男爵領 1.新たな厄介事
エルフたちがヴァザーリから連れて来てしまった子供の処置を巡る話の始まりです。
クレヴァスの新ダンジョン設計のためのディスカッションを終えて、ゆっくりと寛いでいた俺たちの下へ、更なる厄介事が舞い込んで来た。
『貴族の子供?』
『はい。解放した奴隷の中に紛れ込んでいました。我々も獣人たちも持て余していまして、お知恵をお借りしたいと……』
ヴァザーリで解放した奴隷の中に、貴族の子供らしいのが混じっていたらしい。奴隷という立場には同情するものの、人族を自分たちの村に連れて行くわけにはいかないと、獣人たちもエルフたちも連れ帰るのを拒んでいるという。仕方がないのでホルンが引き取り、今はヴァザーリ伯爵領を抜けた先にある森の洞窟で寝泊まりしているそうだ。
とりあえず現状維持を指示して、こっちでも善後策を検討する。
『と、いうわけだ。詳しい事情が判らんのは困るが、とりあえずどうするべきか、意見のある者は言ってくれ』
『まったく、お主は次から次に面倒を拾ってくるのう』
『俺が厄介事を探しているわけじゃない。それより何か考えはないのか?』
『従魔にしたらぁ、駄目なんですかぁ』
俺も含めて一同唖然として、ぶっ飛んだ発言をしたライを見つめた。
『えぇっと、ライ……君? 従魔にしても……どこで飼うの?』
キーンの「飼う」発言はともかく、その意見には俺も同意したい。
『どこでもぉ。どこに居てもぉ、従魔は従魔ですよぉ』
あぁ、そうか。ライの発言は、俺の情報が流出する危険性を最小限に抑えた上で、その子供を保護する事を考えたものか。子供の意志なんて、最初っから考えてないんだな。だが、俺の安全という観点からは悪くない提案だ。
『問題は、俺が子供を引き取るかどうか、という点にかかってくるな』
『貴族の子供……身元は……判らない……ですか?』
『ホルンが問い質したんだが、思い詰めたような表情をして何も話さんそうだ。無気力で指示には黙って従い、逃げ出す素振りもないそうだ』
『ふぅむ。何やら訳ありげじゃのぅ』
『余計な詮索はしたくないな。関わると面倒になる気が、いや、確信がある』
これ以上変なフラグを立ててたまるか。
『じゃぁ、どうするんですか、主様』
『ホルンにこのまま押しつけるのも気の毒だしなぁ……』
・・・・・・・・
とにかく、事情が解らんと対処もできんという事で、ホルンのいる先へ飛ぶ事にした。一応、いつも通りライとキーンが護衛として同行する。
面会前に魔法で子供を眠らせておくよう指示して、ホルンに事情を聞く。
「と、言っても、先日お話しした以上の事は判らないんですよ。マナステラの出身という事はポロリと漏らしたんですが……」
「マナステラ?」
「精霊使い様はご存じありませんか。この国の隣国で、先頃王位の交代がありました」
「……面倒事が絡んできそうな予感がますます強くなったな。魔法で強引に聞き出す事はやってないのか?」
「闇魔法にそういう術があるとは聞きますが、私は心得ていないので……」
仕方ない。地球世界から持ってきた自白剤を使うか。体への影響が心配だし、ホルンに手の内を見せたくないんだが、この際仕方ないか。
自白剤を使って聞き出したところ、少年の名はマール、マナステラ王国のクリーヴァー元公爵家――潰されたらしい――の三男で、今となっては公爵家唯一の生き残りらしい。マナステラ王国の支援者の手で脱出して、奴隷を装ってこの国に潜り込んだという。この国ではホルベックという貴族を頼る手筈になっていたが、その使いの者と合流する矢先にこの災難に巻き込まれたのだと話した。
「ホルベックという貴族に心当たりはないか? ホルン」
『…………』
『…………』
ん? ライとキーンの反応が何か妙だな?
「あの……精霊使い様、エルギン男爵オットー・ホルベックは、精霊使い様がお住まいのエッジ村を含むエルギン領の領主です」
……うん、詰んだかな、これは。
もう一話投稿します。




